広報誌「かけはし」

■2014年9月 No.516
 
 
生活習慣病予防・改善のための運動処方

〜運動が続けられないのはナゼだろう?〜

 7月28日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。同志社大学 スポーツ健康科学部 石井好二郎教授が「生活習慣病予防・改善のための運動処方〜運動が続けられないのはナゼだろう?〜」をテーマに講演されました。参加数は、63組合・87人。(以下に講演要旨)

 
 
石井好二郎 氏
 わが国においても、かつては太っていることが富の象徴であり、憧れの対象でした。七福神の七柱の神のうち、四柱(恵比寿、大黒天、弁財天、布袋)は現在でいえばメタボリックシンドロームが疑われますが、幸せの条件の1つとして「太りたい」という気持ちが人々にあったという証でしょう。
 もちろん、他の幸せの条件としては、「長寿」もあったので"老人(寿老人、福禄寿)"であることも人々の憧れでした。
 しかしながら、日本人の3大死因であるがん、脳血管疾患、心不全も肥満との関わりが強いことが報告されており、現在では太ることと長寿を同時に望む人は限りなく少ないでしょう。

身体運動量低下が問題
 先進国における肥満者の増加の背景には、1970年代までは摂取エネルギー量の増加が、80年代以降は消費エネルギーの減少があるとされています。
 現在のわが国の摂取エネルギー量は戦後の食糧難の時期と変わりません。したがって、身体活動量の低下による相対的な過栄養が肥満の主たる原因となっています。
 身体活動量の低下は肥満を生じさせるだけに止まらず、骨格筋量・骨量の減少にも強く影響を及ぼします。とくに高齢期における骨格筋量・骨量の減少は、転倒による骨折の誘因となりやすいのです。
 たとえ骨折を免れても、その恐怖の記憶から日常生活における活動性が著しく低下し、外出や社会的参加の機会が減少することが報告されています。

運動介入プログラム
 当研究室において、高齢者をはじめとする自立一般市民に対し、さまざまな運動介入プログラムを実施しました。その結果、体脂肪量の減少、脂質代謝・糖代謝・骨代謝・動脈硬化度の改善、運動能力の向上等が認められました。とくに身体活動の恩恵は不活動であった人ほど授かりやすかったのです。

「身体運動」を習慣づける
 また近年、身体活動により骨格筋からはさまざまな生理活性物質が分泌され、全身性慢性炎症を低下させるとの仮説が提案されました。全身性慢性炎症はさまざまな疾患に関連することから、身体活動量の増加は健康長寿につながります。
 しかしながら、運動は始めることより続けることが困難なもの。現時点では、身体活動は強度より量を確保する方が重視されるようになってきました。
 リモコンや携帯電話、エスカレーターやエレベーターなどに囲まれた現代社会では、意識をしないと身体活動量の確保は困難です。日常的な生活活動のなかで、少しでも座業的な時間を減らし、立ったり、歩いたりする習慣づけをすることが、少子高齢化社会を支える第一歩なのです。

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