■2014年9月 No.516
気づきにくい大人の発達障害
7月4日、薬業年金会館で心の健康講座を開催。関西福祉科学大学大学院 教授、EAP研究所 所長の長見まき子氏が「気づきにくい大人の発達障害」をテーマに講演されました。参加数は、61組合・87人。(以下に講演要旨)
長見まき子 氏
1.注目される職場での発達障害
職場で不適応を示す人や、うつ状態が遷延(せんえん)化する人たちのなかには、知的障害をともなわない発達障害が背景にある場合も意外に多く、産業保健領域でも関心が高まっています。そのような背景をもつ人には従来のうつ病治療や、適応支援では十分に対応できないことが認識されるようになっており、どのように対応すればよいのかが課題になっています。
2.発達障害の特徴
自閉症を代表とする生来の社会性の発達障害を示す障害群を広汎性発達障害(PDD
)とよんできましたが、平成25年改訂の米国精神医学会診断統計マニュアルDSM5では、自閉症スペクトラム障害(ASD
)にまとめられました。
2‐1.発達障害の特徴
@社会的相互関係の障害
他の人に合わせて行動するのが苦手、共感性に乏しい、相手の気持ちを考えて話すことができないなど、年齢相応の対人関係をもつことが困難です。
Aコミュニケーションの障害
言葉の遅れはなくてもコミュニケーションが不自然で、自分の興味のあることばかりを話す、話が煩雑でわかりにくい、仰々しい話し方などの特徴がよくみられます。
B想像力の障害
相手の気持ちや見えないものを想像力を働かせ理解することが苦手です。この障害があるため、変化への対応が難しく(変化後を想像して対応することが困難)、決まったことを決まったように繰り返し行うことにこだわります。
これら以外のものとして、感覚面の偏り(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)、運動面の偏り(身体バランスが悪い、球技が苦手、手先が不器用)、情報処理能力の偏り(全体より細部に注目、視覚優位、同時に複数の情報処理をするのが苦手)などがあります。
2‐2.二次障害
発達障害の特徴があるために、失敗や叱責が続くことが多くなると、二次的にうつ病やパニック障害、強迫性障害、PTSDなど他の精神疾患を並存することも少なくありません。
3.職場での対応のポイント
3‐1.職場での問題点
@仕事内容
仕事の遂行が困難なものとして、判断を要する業務、臨機応変な対応、複数業務を平行して行う、スピードを求められる業務、早くかつ丁寧になど2つの質を求められる業務などがあげられます。また、業務の遂行における問題として、何度経験しても学習効果がみられない、曖昧な指示では取り違える、段取りや優先順位がつけられないなどがあります。
A対人関係
言語的・非言語的に相手の意図や感情を読み取ることが苦手なために、他者との交流が状況に応じて適切にできず、周囲から誤解されたり、孤立したり、場合によってはいじめられたりしやすくなります。
3‐2.職場での対応のポイント
本人の努力や変化を望むより、周囲が本人の得手・不得手を理解すること、強みを活かせる仕事内容や職場環境のマッチングがなにより大事です。障害の特徴を踏まえた対応のためには、周囲の気づきと理解が前提となり、本人にとってなにが障害なのか、できないことをさせてないかに目を向けましょう。正しく理解することで、周囲もサポート法や本人の優れた能力に眼が向くようになります。さらに、本人なりに頑張っていることや改善がみられたときなどには、肯定的な言葉がけをすることによって、本人の自己肯定感を育てることもうつ病などの二次障害を予防するうえで重要です。
発達障害の特徴を理解し、彼らがその能力を発揮できる環境を整えていくことは、本人のみならず職場や社会にとっても有益なものといえます。
PDD:
Pervasive Developmental Disorder
自閉症、アスペルガー障害、非定型自閉症など
ASD:
Autism Spectrum Disorder