広報誌「かけはし」
 
■2014年8月 No.515
時評

前期高齢者 納付金の算定方法を正せ

− 水増し 先あて どんぶり勘定を改めよ −


 社会保障審議会医療保険部会は、7月までに医療保険制度改革に関する1巡目の議論を終えた。9月から再開、2巡目の議論を行う。結論を待って政府は、来年の通常国会に改正法案を提出する予定だ。
 われわれの最大関心事は、高齢者医療制度改革の動向だ。これまでの審議では、健保連の白川修二副会長が、高齢者医療制度への公費拡大、単なる全面総報酬割導入は負担の「肩代わり」となり断固反対、医療費適正化への取り組み強化―などを意見具申した。
 このなかで、歪んだ前期高齢者納付金の算定方法を早急に改めるよう、とくに強調した。ここで問題点を再検証したい。
 1点目は、納付金が、前期高齢者にかかる後期高齢者支援金分まで加入者調整率で増幅、「水増し」されることだ。いまの算定方法だと、被用者保険側にとって、実際には在籍しない人の分まで負担するかたちになっている。平成26年度の水増し額は約4400億円(健保連試算)にのぼる。
 前期高齢者加入率の全国平均は、14.3%。健保組合は2.9%で、仮に個々の健保組合の前期高齢者1人あたり医療費を同じとすれば、財政調整された負担額は、補正係数による調整後の平均で5.2倍になる。
 2点目は、軽減措置の不備だ。納付金制度には、前期高齢者加入率1%未満といった極端に加入率の低い保険者に対して、負担軽減措置がある。―それでも約15倍という途方もない財政調整だ。
 ところが、軽減による不足金額を各保険者に再按分する仕組みになっている。そのため、被用者保険全体としての軽減効果がない。それどころか、財政調整の上乗せとなる保険者が続出する状態になっている。
 3点目は、度を越す財政調整のために納付金が激増、毎年の変動額も大きく、健保組合では、まともに予算編成できない事態になっていることだ。そのうえ個々の健保組合のなかで、前期高齢者に高額医療が発生すれば、その部分まで財政調整が増幅され、納付金の負担増としてはね返ってくる。
 4点目は、市町村国保の一般会計に、前期高齢者とそれ以外についての財政区分がないため、被用者保険側が拠出する前期高齢者納付金の国保側(交付金)の使途が不明確なことだ。この点については、2年前に本欄(かけはし491号)で、国保運営協議会での現場の声として、「どんぶり勘定」ではないかと指摘した。
 白川副会長が質したのに対して厚労省当局は、国保の前期高齢者の保険料が所要保険料(給付費等のために必要と見込んだ保険料)を2000億円上回っており、その分は64歳以下の後期高齢者支援金などに充当されている、という。
 しかし、これは被用者保険からの前期高齢者納付金が、交付金となって全額先に前期高齢者の給付費などにあてがわれることを前提とした考え方だからだ。納付金が回りまわって、国保の前期高齢者以外の費用にも充当されているともいえる。
 健保連は以前から、国保の前期高齢者について財政区分を設け、まず国保の前期高齢者の保険料などを「先あて」したうえで、被用者保険の納付金は必要限度にとどめるべき、と主張していたところだ。
 4割の無職者を抱える国保と被用者保険の形態は、まったく違う。国保支援の重要性は理解するが、しわ寄せの大きさで健保組合の足元が大揺れに揺れている。公費を投入せずに体質が違う保険者間の財政調整だけに頼るような、前期高齢者医療の負担のあり方は早く改めるべきだ。
  (T・M)