■2014年6月 No.513
消費税増税 使途にこだわる
― 改革の具体化論議広く深く ―
大きなビルの足元に、「定礎」と刻んだ石や金属板がはめ込まれているのを目にすることがある。最近はめっきり少なくなったが、かつては大抵のビルで見かけた。では、質問。あの奥に何があるのか、ご存じだろうか。
埋まっているのはステンレスや銅の板でこしらえた小箱。中にビルの建築図面、商売繁盛や安全祈願の「お札」、役員や従業員の名簿、定礎をすえた当日の新聞などが収められている。ちょっと異質に思えるのが硬貨一式。製造年号が竣工年の証しということだろうか。
とすると、ここ数年のうちに建ったビルの定礎は希少価値が高まったことだろう。収めてある一円玉は2010年以降、記念品向けにわずかしか製造されず、ほとんどが流通していないからだ。
存在感の薄い一円玉だが、今は増産中という。表舞台に引き戻したのはほかならぬ消費税増税。8%に上がり、端数処理で出番が回ってきた。「平成26年」の一円玉はこの増税の象徴でもある。
25年前の創設時は「損をする」と焦った。17年前の「5%」時は「上がる前に買っておけば」と悔しかった。今回は「これしかないものなぁ」と自然体の自分がいる。
その「8%」も2カ月が経とうとするが、世の中の反応もおおむね冷静だ。われわれ国民が何とか痛みをこらえているのは、手元の財布から出ていく〈税金〉が、この国の社会保障を支えると信じているからだろう。
この増税で今年度は5兆円が国に入るとされている。さらに「10%」も控え、「全額、社会保障の充実と安定化」(政府広報)に使うというのが、国とわれわれの約束だ。
4月下旬、社会保障審議会の医療保険部会で社会保障改革の具体化論議が始まった。目が離せないのが後期高齢者支援金に全面総報酬割を適用する動きだ。昨年、国民会議の最終報告に盛り込まれ、国は15年度導入を目指している。国保の赤字を健保組合が埋めよという算段だが、どう受け止めても筋が通らない。
社会保障改革が、すなわち健保組合の負担軽減と単純に考えていない。国保救済も急務だ。ただ、消費増税の上、今の枠組みのまま、さらに年間1300億円の重荷を強いるのが理解できない。
それでも健保組合はやっていけると、本当に思っているのだろうか。同部会には広く、深く議論を重ねてもらいたい。
「一円玉の旅がらす」という歌を覚えておられようか。消費税創設の翌年、NHKの歌番組から流行した。90年代初め、ある労働組合では愛唱歌だったという。バブル崩壊で勢いをなくした賃金交渉に臨み、一円の積み上げにもこだわる思いを"熱唱"にこめたと聞いた。
同じこだわりを、われわれも持ちたい。消費税を上げてもなお、国の予算は膨らみ、13年度補正は今回の増収想定分を超えた。一方で、増税前のもう一つの約束、国会議員定数の削減は、いまだ果たされてはいない。
そんななかで、国は約束をきちんと守ってくれるのか――。消費税が使われていく先を、一円たりともおろそかにせず、しっかりと見届けたい。
(S・A)