広報誌「かけはし」
 
■2014年3月 No.510
時評

高齢者医療拠出金に異議あり

― 支える現役世代に重い負担 ―


 高齢者医療制度への拠出金には、前期高齢者納付金と後期高齢者支援金、また、廃止が決まっている退職者給付拠出金がある。その対象年齢により、拠出金の算定方法がそれぞれ異なることに、違和感をおぼえる。
 そもそも拠出金は、高齢者の医療費を国民全体で平等に支えるためにある。しかしながら、3つの拠出金は、それぞれ計算式を異にしている。
 退職者給付拠出金は総報酬、すなわち所得に対して一定の率を乗ずる方式だ。後期高齢者支援金は、保険者ごとの制度加入者の人数割合と総報酬に対して一定の率を乗ずる方式で、全面総報酬割への移行が話題になっている。
 とりわけ最大の問題は前期高齢者納付金の計算式である。これだけは、まったく異常である。旧・老人保健拠出金制度を継承したもので、この制度自体、過去の歴史のなかで公正だったのか疑問視されている。当時は老人保健対象者の人数も少なく、公費は5割投入されていた。それと比較すれば、いまの前期高齢者納付金の負担額は激増している。
 前期高齢者納付金は、加入者の人数割でも、総報酬割でもなく、基本的には各保険者の前期高齢加入者の医療費総額に、前期高齢者の全国平均加入率と各保険者の前期高齢者の加入率による按分率を乗じて計算する仕組みである。
 一番の問題点は、仮に同じ医療費であっても、保険者ごとに負担する納付金額が違ってきて、何倍にも変化することだ。とりわけ健康保険組合は、前期高齢者の加入率が低いため、高額な医療費が発生すると、たちまち財政を大きく圧迫することになって、安定した運営に支障をきたすこととなる。
 また、この計算式に加え、前期高齢者にかかる後期高齢者支援金まで財政調整を行うこととされており、被用者保険サイドに不当な重複負担を強いることになっている。
 一昨年、協会けんぽは、保険料率を10%に引き上げたが、このとき、「これ以上の負担には耐えられない」と、政府に国庫補助の引き上げ等の要望を行った。この際、関係者だけで300万人以上の署名を集めたと聞いている。
 このように、医療費と拠出金負担は切実な問題となっている。健保組合も深刻で、協会けんぽ以上の保険料率を設定せざるを得ないところも続出しており、まさに限界にある。
 いまの状況を打破するために、高齢者医療制度の負担構造の見直し、とりわけ前期高齢者医療への公費投入が喫緊の課題であると指摘しておきたい。
 ところが、昨年夏にまとめられた社会保障制度改革国民会議報告書の内容は、健康保険法等改正案についての昨年5月の参議院厚生労働委員会附帯決議の内容が反映されていない。拠出金負担で財政破綻目前の健保組合に対する認識と、拠出金制度により、健保組合の運営が極めて不安定かつ困難であることにも理解が乏しい。
 現役世代に重くのしかかる高齢者医療の費用負担。そのあり方を早急に見直さない限り、昨年12月に成立した社会保障制度改革プログラム法第4条第1項で謳われている、国民皆保険制度の堅持が不可能になる。
  (H・K)