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産科医療補償制度の見直しが遅れている。この制度は、分娩にかかる医療事故救済と紛争の早期解決、および産科医療の質の向上を図ることを目的に、平成21年1月に創設されたものである。
妊娠週数33週以上かつ出生体重2000グラム以上、または妊娠週数28週以上で低酸素状況を示す所定の要件に該当する場合の分娩で発症した重度脳性麻痺が補償の対象だ。1分娩当たりの保険料は3万円、補償額は600万円の一時金と分割金(年120万円×20年間)の合計3000万円となっている。
また、施行時から5年以内に、保険料や補償水準等について見直すことになっていた。
施行時のシミュレーションでは、補償対象になる重度脳性麻痺児は最多で年間800人、年間補償額240億円と見積もって保険料を算出していた。しかし、実際の支給対象者実績は平成21年225人、22年195人、23年143人、24年70人(平成25年10月末時点)である。
支給申請期限が満5歳の誕生日までなので、これからも若干増えようが、それでも年間の補償対象者は約200人で推移するのではないかとみられる。いったい、どのようなシミュレーションだったのだろうか。初めに保険料ありきだったのではないかと疑いたくなる。
保険料は、年間新生児約100万人として約300億円が徴収されるが、1年間の補償金の支出実績は約60億円であり、毎年、事務経費を除いて約200億円の剰余金が発生し、制度発足から5年目となった25年には、約1000億円の剰余金が積み上がっていると推察される。
剰余金は損保会社が資産運用していると思うが、リーマンショック後からの運用なので、元本保証の安全運用であっても運用益は相当な額になっているだろう。この状況もわかりやすく開示して制度を見直さなければならない。
産科医療補償制度を運営する日本医療機能評価機構は、昨年、社会保障審議会医療保険部会に3万円の保険料を減額する案を示した。また、同案では、補償対象も現行から妊娠週数31週以上、出生体重1400グラム以上に拡大することを提示。新たな保険料は平成27年1月以降の導入を予定しているとした。
しかし、見直しに関する今回の収支シミュレーションも妥当なのか。いまある剰余金はどうするのか―これらを明解にしてもらいたい。
長期安定的な制度運営が大前提になることはわかる。しかし、これでは不当に高い掛金によって積もり積もった剰余金の減額と返還ができるのか疑問である。
また、付加保険料(事務経費)が、一般の損害保険に比べ高すぎるだろう。原因分析、再発防止等にも少しは費用がかかるのであろうが、これも精査してもらいたい。
そもそも、この高すぎる保険料は誰が負担しているのか。健康保険料や税金で、国民全体が負担しているのである。
昨年、妊産婦らが国民生活センターに掛金返還を求める和解の仲介申請を行っていた。あれはどういう根拠なのか。本人負担と勘違いしているのであれば、これを機に損害保険の原則でもある受益者負担とするのも一考である。 |
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(K・N) |
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