■2014年1月 No.508
「食べる順番」でメタボ予防
12月12日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。大阪府立大学 地域保健学域 今井佐恵子教授が「『食べる順番』でメタボ予防」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
今井 佐恵子 氏
食後高血糖と動脈硬化
メタボリックシンドロームは、インスリン抵抗性にもとづく高血糖、高血圧、脂質異常症など動脈硬化のリスクファクターを有し、これら代謝異常は重複して動脈硬化を促進する。食後高血糖は重要な動脈硬化促進因子であり、血管内皮障害や炎症を引き起こす。
さらに、血糖の日内変動幅が大きいと動脈硬化を促進させることが明らかになってきた。
「野菜から食べる順番療法」の血糖上昇抑制効果
「食べる順番」とは、まず野菜をにぎりこぶし1個か2個分食べきり、次にタンパク質のおかず、最後に炭水化物であるごはん、麺類、パン、イモ類を食べる。野菜は生野菜だけでなく、茹野菜、蒸野菜のほか、煮る、炒めるなど加熱したものでもよい。海藻、きのこ類、こんにゃくも野菜類と同様、最初にゆっくりよく噛んで食べる。
1日288回血糖値が測定できる持続血糖測定器を使用し、2型糖尿病患者を対象に、3食の試験食を野菜→主菜(タンパク質)→主食(炭水化物)の順に摂取(以下、野菜から摂取) した日と、主食(炭水化物)→主菜(タンパク質)→野菜の順に摂取(以下、炭水化物から摂取)した日の血糖変動の違いを調べた。
炭水化物から摂取した日は、毎食後の血糖値のピークが3食とも300mg/dlを超え、昼食前、夜間に低血糖をおこし、血糖変動幅が大きかった (図1)。
ところが、同じ患者が野菜から摂取すると、食後血糖値が100から150mg/dlも下がり、血糖変動幅も大きく縮小し、健常者においても同様の効果が認められた。
同じ栄養量の食事を摂取しても、野菜を最初に食べるだけで食後高血糖が改善し、血糖変動幅を縮小することができた。さらに、長期の血糖コントロールも改善し、体重、血清脂質、血圧も低下した。
なぜ食べる順番療法はメタボに効果があるのか
野菜に含まれる食物繊維は糖質、脂質、コレステロールの消化吸収を遅らせ、食後の血糖上昇およびコレステロールの吸収を抑制する。炭水化物を摂取する前に、野菜を摂取すると、
インクレチンホルモンであるGLP―1の分泌が増加し、インスリン作用の増強および胃内容物の排出遅延、腸管の蠕(ぜん)動抑制作用により、食後血糖上昇を抑制し、さらに血糖変動幅の縮小に寄与したと考えられる。
急激な血糖上昇は血管内の酸化ストレス、糖化を引き起こし、動脈硬化を進行させるだけでなく、老化も進める。糖尿病、高血圧、脂質異常症は、酸化ストレス、糖化、血液凝固系の亢(こう)進などにより、相乗的に最小血管障害および動脈硬化を促進させる。
メタボリックシンドロームや糖尿病患者だけでなく食後高血糖が認められる糖尿病予備軍、さらには健康な人にとっても、「食べる順番療法」は簡単で実行しやすい食事として有効であると考える。
※インクレチンホルモン→消化管ホルモンの総称