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職場における慢性腎臓病(CKD)の予防と対策

〜 生活習慣病との関連をふまえて 〜 |
10月3日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。大阪大学大学院 医学系研究科 椿原美治教授(腎疾患統合医療学)が「職場における慢性腎臓病(CKD)の予防と対策〜生活習慣病との関連をふまえて〜」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨) |

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椿原 美治 氏 |
慢性腎臓病(CKD)とは、蛋白尿などの異常や腎機能の低下(正常の約60%未満)した状態が、3カ月以上持続した場合であり、健診レベルのスクリーニング検査で診断が可能なため、急速に普及した疾患概念である。
わが国のCKD患者数は1300万人におよび、放置すると透析や腎移植を要する末期腎不全に到る。
さらに重要なのは、CKDは高血圧や糖尿病以上に心・血管病(CVD)の大きなリスクである。皮肉にも、CKDの原疾患のトップは糖尿病であり、高血圧による腎硬化症の頻度も増加しており、CKDの発症には生活習慣病が大きく関与している。
逆にいえば、CKDの予防や治療には生活習慣の改善が不可欠であり、早期に発見し治療を行えば、進行を阻止できるばかりか、改善することも期待できる。しかし、糖尿病でも高血圧でもガイドラインに沿った治療が行われているのは約半数に過ぎないのが現状である。
CKDがCVDのリスクとなる要因は多岐にわたる。
最も大きな要因は高血圧である。高血圧はCKDの原因であるとともに結果としても発症する。腎機能が低下すると、過剰に摂取された塩分を尿に排泄する合目的的反応として血圧が上がる、という悪循環を形成することになる。これを断ち切るには、塩分制限が重要である。困難な場合には降圧薬により、厳格に治療することが必要である。
腎機能が低下すると、腎臓からの造血ホルモンの分泌が低下し、腎性貧血を呈する。貧血が持続すると、全身倦怠などを呈するとともに、心臓にも負担となり、心機能低下につながる。
さらに最近注目されているのは、骨・ミネラル代謝異常である。腎機能が低下すると、リンの排泄が低下し、血中濃度が上昇すると、血管や関節など、骨以外の組織でカルシウムと結合して石灰化が生じ、動脈硬化につながる。しかし生体はこのような状況を免れるために副甲状腺ホルモン(PTH)などを分泌して、リンの尿排泄を促進している。一方、PTHが過剰に分泌されると、骨を溶かしてしまうことになる。
すなわち、腎機能の低下した患者や高齢者がリンの多く含まれる乳製品や小魚を摂ると、予想に反して、骨がもろくなる結果となるばかりか、血管の石灰化、さらには血管に富む腎臓での石灰化にともなって腎機能も低下する、という悪循環を形成する。
このような悪循環以外にも、さまざまな機序でCKDの増悪をきたすことが知られているが、誤解されている場合も多い。
正しいライフスタイルの改善が必要となるが、外来のみでは困難なことが多い。このため、大阪府立急性期・総合医療センター腎臓・高血圧内科では、腎不全の短期入院プログラムを作成し、金曜〜火曜の入院で検査や指導を受けることができる。 |
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