広報誌「かけはし」

■2013年11月 No.506
 
 
「うつ状態」という診断書がもたらす混乱

 9月19日、薬業年金会館で心の健康講座を開催。大阪樟蔭女子大学大学院教授、産業ストレス学会理事長の夏目 誠 氏が「『うつ状態』という病名について」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
 

 

夏目 誠 氏

 メンタルヘルス活動のなかで、私が気づくことは以下に示す「連携」の重要性です。すなわち嘱託産業医(非常勤で月に数回かかわる、多くは地域で開業の先生)や職場関係者(上司や人事担当者など)は、クリニックや病院の精神科や心療内科主治医から「うつ状態」と書かれた診断書を受け取ることが多い。そのときに「診断書の病名」の受け取り方で混乱をきたしています。
 まず、表1に「産業医」と「主治医」の役割や根拠となる法令の差異を示しました。表示のように、役割が大きく異なっているのがポイント。そのため、両者の間では「誤解」や「混乱」が生じやすい。
表1.「産業医(多くは非常勤の嘱託産業医)」と主治医の相違
 混乱の多くは、診断書の「病名」である「うつ状態」を「うつ病」と考え、「うつ病」でよいとされている対応をしてしまうことにあります。しかし、図1に示したように、それには「うつ病」以外の「適応障がい」や「統合失調症」、「パーソナリティ障がい」などが含まれているのです。
図1.「うつ状態」は状態像であり、さまざまな「病名」が含まれる
表2.病名に関する両者の「受け止め方」の差異
 次に、表2に示すように精神科や心療内科主治医は、診断書の目的を「会社を休み、休養をとり治療すること」を重要視します。しかし、「病名(病気への誤解や偏見の歴史もあるので)」はそれなりに書くことが多いのです。一方、産業医や職場関係者などは、かなり「病名」にポイントをおきます。このズレが大きいです。
 最後に両者の望ましい連携を図2に示しました。
図2.産業医・産業保健チームと精神科医との連携の実際
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 講演では多くの事例をあげながら実際的に説明されるとともに、対応について提言されました。