広報誌「かけはし」
 
■2013年11月 No.506
時評

医療体制の改革で皆保険守れ

− 安倍政権の勇断に期待する −


 安倍首相が消費税の増税を決めた。来年4月、5%から8%に上がる。金額にして8兆円余り―。
 「社会保障と税の一体改革」として、増税はやむを得ないと大方の国民も理解していよう。国債を中心とする国の借金総額は、1千兆円を突破している。将来の世代に借金のツケを回しながらやりくりしてきた結果である。この最大の原因は、高齢化にともなう年金・医療・介護などの社会保障費の伸びである。
 国民医療費は、毎年1兆円ずつ増加し、2012年度(平成24年度)で38.4兆円と10年連続で最高値を更新している。この先、2015年度(平成27年度)は45.7兆円、平成37年度には61.8兆円とGDPの伸びを上回って増大すると見込まれている。
 消費増税による3%分は約8兆円だが、それで、「社会保障の安心」は得られるのか。社会保障のための増税とはいえ、増税しても社会保障で膨らむ借金の伸びを少しだけ抑えるという程度であろう。高齢化で増え続ける社会保障の財源を賄うには不十分で、1千兆円の国の借金を減らすことも難しいと思われる。
 社会保障費の節減のためには、効率化が必要であり、それには余裕のある高齢者には応分の負担を求め、現役世代の重荷を減らす抜本的な制度改革も欠かせない。
 また、医療提供側に対して、需要と供給のバランスからも経済原理からも、医療費の適正な価格を求めるべきではないか。医療財政の運営に歳出抑制も考えなければ財政再建は難しいと考える。
 急速な高齢化のなか、疾病構造は変化してきており、医療の内容も変化している。平均寿命が60歳代の社会では、壮年期の救命、治癒、社会復帰を目的とした「病院完結型」の医療が中心であった。だが、平均寿命80歳代のいま、慢性疾患による受療が多くなり、複数の疾病を抱える人が増え、老年期の病気共存という「地域完結型」医療・介護に変わってきている。
 日本は、いまや世界一の高齢国家であるにもかかわらず、医療システムは変わっていない。「社会保障制度改革国民会議」が示した医療の機能分化と、医療から介護に至る提供体制のネットワーク構築が、あるべき今後の医療システムなのではないのか。
 高齢化の進展により、さらに変化する医療ニーズと医療提供体制のミスマッチを解消することができれば、同じ負担の水準でも、現在より質の高いサービスを効率的に提供できよう。
 日本の医療機関は相当の経営努力を重ねてきた。そして、高いコストパフォーマンスを達成してきた。その結果、日本の医療は世界的に高く評価されている。
 しかし、いまの医療財政を考えるならば、健保組合のように安定財源の確保に最大限の努力をし、国民の負担を適正な範囲に抑えていくことが重要である。国民皆保険制度の良さを損なわず守り通すためには、医療そのものも変わらなければならない。
 2020年に東京でオリンピックが開催される。1964年の東京オリンピック以来、56年ぶりである。その間日本の人口構造は大きく変化した。当時は現役世代9.1人で65歳以上の高齢者1人を支えていたが、現在は2.4人で1人、2020年には2人で1人を支えることになる。
 団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年を視野に、「国民の健康寿命が延伸する社会」を構築するとして、データヘルス計画がスタートする。国民の健康寿命と平均寿命の差を少しでも縮小することにより、医療費の削減も期待でき、健保組合としての存在意義も明確にできるという取り組みを推進しよう。
 われわれ自身のためにも。
  (M・K)