 |
9月3日、薬業年金会館で健康教室を開催。大阪大学大学院 医学系研究科 祖父江友孝教授(環境医学)が「データに基づいたがん対策の進め方」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨) |
|
 |
|
祖父江友孝 氏 |
2006年にがん対策基本法が成立し、2007年にがん対策推進基本計画・都道府県がん対策推進計画が策定されて、わが国においても、がん対策を総合的かつ計画的に推進する方向性が示された。2002年にWHOも国家的がん対策プログラム(※1)の推進を提唱している。
その目的とするところは、第一に、がんの罹患率と死亡率を減少させることであり、第二に、がん患者とその家族のQOL(※2)を向上させることである。
この2つの目的を達成するため、予防・早期発見・診断・治療・終末期ケアからなる一連のがん対策において、証拠に基づいた戦略を系統的にかつ公平に実行し、限られた資源を効率よく最大限に活用することが、データに基づくがん対策の進める際の基本的な考え方である。
がん予防について、わが国におけるがんのリスク要因として重要なものは、喫煙と感染性要因(ピロリ菌、B型・C型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒトT細胞性白血病リンパ腫ウイルス)であることが近年示された。これらの要因についての対策は、単に個人の努力に求めるのではなく、保健医療以外の領域を含めた幅広い環境整備が必要である。
がん検診については、有効な(死亡減少について十分な証拠のある)検診を、正しく(適切な精度管理を行うことで高い質を保ちつつ対象集団における受診率を100%に近づける)行う必要がある。生存率による評価は、先行時間による偏り、滞在時間の長さによる偏りのため有効性が過大に見積もられるため適切ではない。
一方、がん検診を行うことで不利益(偽陽性による不必要な検査、合併症、過剰診断など)を受ける人が必ず一定頻度で生じる。したがって、利益に関する証拠とともに、不利益に関する証拠を集積し、両者のバランスにもとづいて検診の推奨度を決定する必要がある。その際、対策型検診(対象集団全体の死亡率減少を目的とした検診)については、集団全体としての利益が不利益を上回ることを事前に確認する必要がある。
近年、諸外国においては、がん検診がもたらす不利益が重要視される傾向があり、2012年5月にUS PSTF(※3)は、PSAによる前立腺がん検診は、不利益が利益を上回るとして、全年齢について受診を控えるように推奨を変更した。がん検診の不利益については、とくに高齢者が受診する場合に生じやすく、わが国においてこそ議論が必要な重点課題である。
わが国におけるがん検診受診率は概ね20〜30%程度と、欧米諸国に比べて低いことが指摘されている。とりわけ、がん検診がターゲットとすべきは40〜69歳の働き盛りの年齢層であるが、これらの検診の大部分は職域において提供されているにもかかわらず、法的な根拠がなく、受診実態も把握されていない。
2012年に策定された新がん対策推進基本計画においては、地域と職域のがん検診との連携が言及されており、また、「受診率の算定に当たっては、40歳から69歳(子宮頸がんは20歳から69歳)までを対象とする」ことが明言された。がん検診の実施主体の議論も含め、職域におけるがん検診を対策型検診として組織化する必要性がある。 |
※1 |
National Cancer Control Program |
※2 |
Quality of life |
※3 |
US Preventive Services Task Force |
|
 |