広報誌「かけはし」

■2013年9月 No.504
 
 
肥満とやせと健康づくり

〜 本当は怖い隠れ肥満 〜

 8月6日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。立命館大学大学院 スポーツ健康科学研究科 真田樹義教授が「肥満とやせと健康づくり〜本当は怖い隠れ肥満〜」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)

 
 
真田 樹義 氏
身体不活動は日本人の死亡関連要因の第3位
 2007年の国民栄養調査の結果から、運動不足による非感染性疾患と外因による死亡者数は、年間5万2200人で死因に関連する危険因子としては、喫煙、高血圧に次いで第3番目であったと報告されています。つまり、国民の身体活動量を増加させることは国民の健康増進にとって重要な要因であると考えられます。
 これは近年、運動スポーツと寿命との関連についての研究が世界中で増えたことと、信頼性の高い体力や身体活動量の測定が行えるようになったことなどが関連しています。
 「運動は健康によい」ということは頭ではわかっているという方がほとんどだと思いますが、最先端の研究から、「日常の身体活動量を増やすと長生きする」ということは真実だといえます。

健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)
 アクティブガイドは、国民の健康増進を図ることを目的とする「健康日本21」の一環として、1日どれくらいの活動が必要なのかについてのガイドラインとして発表されました。具体的には、18〜64歳の方では「元気にからだを動かしましょう1日60分!」、65歳以上の高齢者では「じっとしないで1日40分!」、筋力トレーニングやスポーツが含まれるとなお効果的です!、というものです。
 今回のアクティブガイドの大きな特徴の1つとしては、+10(プラス・テン)から始めよう!をキャッチコピーにしていることです。身体活動は、歩行や自転車等の運動や家事、洗濯、通勤等の生活活動など、どれでも10分以上行い、それらを1日6回(高齢者は4回)確保します。身体活動は続けて行う必要はなく、コマ切れでも十分に健康づくりの効果が認められるためです。

やせとの関連
 一般に体組成の加齢変化としては、体脂肪の増加とともに全身筋量の低下が認められます。つまり、高齢者は「肥満」と「やせ」の問題を同時に抱えていることになります。体格指数(BMI)と心血管系疾患による死亡リスクとの関係をみると、肥満だけでなく、やせの場合でもそれらのリスクが高いということが報告されています。
 加齢による筋量の減少は「サルコペニア」と呼ばれていますが、最近、この「サルコペニア」と肥満の合併がさらなるメタボリックシンドロームリスクを高めることが話題となっています。これは、一般的にいう「隠れ肥満」の状態となります。筋量の減少と体脂肪の増加はお互いに深く関連していますが、これらの変化の主要な要因としては筋量の減少である「サルコペニア」が重要であるといわれています。加齢による筋量の減少は、安静時代謝量に直接関与し、間接的に身体活動量を減少させます。この結果、エネルギーの出納バランスが負に転じることで体脂肪の蓄積がさらに促進されると考えられます。さらに、体脂肪、とくに内臓脂肪の増加は、筋タンパク合成を抑制しますので、筋量がますます減少することになります。
 このような負の連鎖は加齢とともに進行しますので、年をとると「隠れ肥満」の状態となるのは生理的な現象であると考えられます。中高齢者の運動のポイントとしては、肥満を解消するために日頃の身体活動量を増やすとともに、腹部や脚部等の筋トレを行うことで筋量を維持し、「隠れ肥満」を予防することが大切であると考えられます。