広報誌「かけはし」
 
■2013年7月 No.502
時評

高齢者医療に持続可能性を

− 世代間・制度間で公平な制度に −


 現在、社会保障制度改革国民会議において、公的保険の問題に限らず、医療、介護、年金、少子化対策など、さまざまな議論がなされている。しかし、残念ながら、肝心の高齢者医療制度については、持続可能性を探るような議論がみえてこない。
 一方、健康保険組合の現場では、7月は多くの組合で平成24年度決算を審議する組合会が開催される時節である。あらためて、決算書・予算書を眺めると、支援金・納付金等の大きさを実感するとともに、ビジョンなき高齢者医療制度の将来に暗澹(あんたん)たる気持ちになる。
 平成25年度の全国の健保組合の予算早期集計結果によると、支援金・納付金等と法定給付費を合わせた額、いわゆる義務的経費の保険料収入に対する割合は、99.0%である。このうち支援金・納付金等の割合は、46.2%で過去最高を記録した。平成20年度からの高齢者医療制度への拠出金は、健保組合の財政を年々圧迫している。
 すでに高齢者医療制度の問題点については、さまざまな方面で指摘されている。とりわけ前期高齢者納付金については、健保組合の財政に大きな影響をもたらしており、その点について強調しておきたい。
 前期高齢者納付金には公費が投入されておらず、国保への過重な財政調整となっていることが最大の問題だ。また、前期高齢者にかかる後期高齢者支援金も全国平均の前期高齢者加入率で財政調整されるという不思議な制度である。さらに、2年後にならなければ当該年度の拠出金額が確定しないという不確実性も有している。
 さて、もう1点。変動性の問題である。前期高齢者加入率の全国平均は12.9%(平成24年度)だが、たとえばこの加入率が1%の健保組合において、加入者1人当たり医療費が1%変動すれば、納付金には変動分に対して10倍以上のはね返りとしてあらわれる。1人当たり医療費を納付金の算定要素の1つとすることについては、前期高齢者の医療費を保険者のなかで適正化するインセンティブと解釈する向きもある。
 しかし、前期高齢者の1%程度の医療費の変動は、健保組合の医療費全体のなかでは誤差の範囲であり、保険者の努力で抑えられるものではない。
 前期高齢者の医療費が高いとはいえ、変動率が急変するケースは、まずありえない事象であるが、このような変動リスクに健保組合は常に晒されているわけである。これでは自主性、自律性を旨とする健保組合が、こと財政に関しては他律的になっている。したがって、健保組合の存在理由からも、納付金は異常な計算方法=制度と認識せざるを得ない。
 国民会議も終盤を迎えている。世代間・制度間での公平な給付・負担が担保され、健保組合等の保険者に希望がみえてくる社会保障制度改革を望む次第である。
  (T・M)