広報誌「かけはし」
 
■2013年6月 No.501


 大阪連合会は6月4日、大阪市北区のホテルモントレ大阪で時局講演会を開催した。健保連本部、健康保険政治連盟との共催によるもの。この日の時局講演会は、大阪連合会の安藤力会長のあいさつで開会。梅村さとし参院議員(民主・大阪府)の「社会保障・医療保険制度改革等について」と題する講演が行われた。

 平成25年度の健保組合予算早期集計によると、全国・大阪府ともに約4割の組合の保険料率引き上げにもかかわらず、8割以上の組合が大幅赤字。保険料収入の約5割は高齢者医療への拠出金という厳しい状況だ。
 一方、社会保障・税一体改革の動向も左右する参院選が7月に、医療・介護・年金・少子化対策の改革像を描く社会保障制度改革国民会議の結論が8月に予定されている。健保組合を取り巻く情勢が微妙な局面のときに開かれた時局講演会とあって、組合の関心が高く、77組合から106人の役職員が出席した。
 冒頭あいさつに立った安藤会長は、これまでの国民会議での議論に対して「高齢者医療制度改革の方向性がみえてこない。国民皆保険制度を将来にわたり持続していくという強い意志がみられない」との懸念を表明した。
 さらに、高齢者医療改革について「健保組合の拠出金負担に対する財政支援の継続・充実、若年層への過重な負担の軽減、公費負担の充実に取り組むよう強く政府に望みたい」と強調した。
 続いて、梅村さとし参院議員(民主・大阪府)が演壇に立った。医師である梅村議員は、現在、参院厚生労働委員会委員。自公民3党実務者会議メンバーでもある。この日は、「社会保障・医療保険制度改革等について」をテーマに講演された。以下に梅村議員の講演要旨。
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梅村さとし参院議員 講演
TPPと医療保険制度
梅村さとし議員
 安倍総理はTPP交渉参加を表明し、記者会見で、日本の医療保険制度は交渉の俎上に上がっていない。したがって、交渉参加によって特段変わることはない、と述べた。それより先、日本医師会は、国民皆保険制度を崩壊に導くTPP交渉には反対、との意思表示をしており、総理はそれを意識しての発言と思われる。
 しかし、「日米経済調和対話」(2009年)におけるアメリカからの要望書には、@医療機関の剰余金の配当、A医療機関同士の直接融資、B医療機関同士が合併するとき医療審議会の許可不要――が可能となるよう記されており、今回のTPP交渉からはずされていない。一方では、ジェネリック医薬品の処方権に対する特許問題もある。
 したがって、医療保険制度そのものは俎上に上がっていないが、関連するさまざまなことが要求されている。日本は交渉参加に遅れたので、こうした医療保険の個別事案の検討に入らないと間に合わない。早く関係者間で守るべき範囲を確認しておく必要がある。
 この問題は、与野党対立のネタにはならない。3党で協力して国益を守るための交渉をやっていくので、皆さんから意見を聞かせていただきたい。
医療保険と介護保険
 たとえば、サービス付き高齢者向け住宅というものがある。一昨年、国交省と厚労省の合意により、いま全国に配備されており、約2割が大阪に集中している。この住宅は、ケアに気をはらうことと安否確認が義務となっていて、ここにいろいろな医療、介護サービスをつけて、高齢者に過ごしてもらうということである。
 ところが、患者を送り込むことと診療報酬のキックバック(2割ほど)を、施設側と医療機関が契約する例もあるという。民・民契約だからといって、これを止める法律は現在なく、このようなケースが全国的に広がっている。これが本当の地域包括ケアだろうか。
 同様のことが、柔整療養費についてもいえる。療養費請求額の2割を報酬として受け取る業者がある。
 非営利の医療保険と営利を認めている介護保険がドッキングしたら、必ず営利のほうに引っぱられる。非営利のところがモラルハザードにさいなまれることになる。私は、診療報酬のキックバックなどは明確に禁止すべきと考えている。法令・通知や保険医療養担当規則等で規制できないままでは、いまの社会保障制度はもたないと思う。
尊厳死問題
 尊厳死・平穏死は、安楽死とは違う。安楽死は、積極的にアクションを起こす方法で、オランダやアメリカの一部の州で認められているが、いまの日本ではいっさい認められていない。
 問題なのは、意識がなくなって明らかに終末期を迎えた状態にもかかわらず、人工栄養を開始することなどが、はたして本人の自己決定にもとづくものなのか、ということである。私は、日本では尊厳死を認めるべきであり、できればそのための法整備が必要と考えている。
 医療保険の立場からみれば、医療費問題として重要な課題ではないか。亡くなる前1カ月に使われる医療費は、年間約9100億円といわれている。日本は国民皆保険制度の国だから、医療を求めれば一生懸命、医療を施してもらえる。
 しかし、もう一つは、「そこまではやめてください」という権利も認めていかないと、本当の意味で自己決定が認められている国といえないのではないか。国民全体でこのような議論をしていかなければならない時期にきていると思う。

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