広報誌「かけはし」
 
■2013年6月 No.501
時評

前期高齢者医療に早く公費投入を

− 現行制度は過剰な財政調整だ −


 健保連の平成25年度事業計画の基本方針の一つに、「高齢者医療制度に対する公費投入拡大の早期実現」がある。平井克彦会長は健保連総会において「とくに、前期高齢者の医療費に対し公費を投入していただかなければ、もはや健保組合をはじめとする保険者はもたない状況にある」と言及されている。まったく、そのとおりである。
 各医療保険者の前期高齢者納付金・交付金は、おおむね前期高齢者加入率と、1人あたり医療給付費の高低などによって、納付する側・交付を受ける側あるいは金額の多寡が決まる。健保組合は、加入率が概して低い。また、制度上、納付金額に上限がない。したがって、納付金の負担が無制限に重くのしかかり、健保組合財政の赤字の大きな要因となっている。
 一方、平成24年度の市町村国保の予算で、おもな収入をみると、保険料が3.2兆円、国庫負担金が3.3兆円、前期高齢者交付金が3.4兆円となっている。いまや前期高齢者交付金は保険料収入を上回っているのである。ほとんどの収入を保険料に求めているわれわれ健保組合には、信じがたい現実で、受認の限度を超えている。
 高齢者医療確保法によれば、各保険者の加入者数に占める65〜74歳の「数の割合に係る負担の不均衡を調整する」ため、保険者に対して前期高齢者交付金を交付する、交付金は前期高齢者納付金をもって充てる、とある。公費は、まったく投入されていない。
 24年度の全保険者平均の前期高齢者加入率は12.9%。その内訳は、健保組合平均が2.6%、協会けんぽが4.9%、共済組合が1.6%で、納付金の拠出側に回る。逆に市町村国保平均は32.3%で、交付金を受ける側となる。加入率が低いほど、あるいは突然、前期高齢加入者に高額医療費が発生した場合などに、納付金が突出する。
 健保組合全体の24年度の納付金額は1兆3016億円にのぼる。今後も納付金の増加は確実だ。嵩んだ納付金の負担が毎年続くことになる。法律では「・・・・・・負担の不均衡を調整」というが、あまりにも過剰な財政調整だ。
 市町村国保で前期高齢者の加入割合が高いのは、社会の就業構造上、仕方がない。そこは、現役世代も応分の負担をする必要があるだろう。しかし、健保組合はじめ被用者保険がすべてをカバーする現行制度は無理筋だ。被用者保険はすでに疲弊しており、このままでは早晩、国民皆保険は崩壊する。
 われわれは、なにも前期高齢者の医療費の全額を公費負担せよと言っているのではない。国は50%の公費を投入して公的責任を果たし、高齢者医療制度の長期安定を図ることが急務である、と主張しているのだ。
 健保組合は自主独立を旨とし、保険給付事業と保健事業の2つがメインの仕事であって、合わせて高齢者医療制度への拠出も行うもの、と考えていた。しかるに、これほど拠出金で頭を悩ますとは思ってもいなかった。健保組合の運営に携わる方は、皆同じ思いだろう。前期高齢者医療に公費を投入するよう、早急な制度改正を望むものである。
  (K・N)