■2013年1月 No.496
高血圧・メタボを予防・治療し健康長寿を手に入れる
11月28日、大阪商工会議所で健康セミナーを開催。大阪大学大学院医学系研究科 老年・腎臓内科学 講師 神出計 氏が「高血圧・メタボを予防・治療し健康長寿を手に入れる」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
神出 計 氏
中年期以降、一般的に最も多く遭遇する疾患は高血圧症、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病である。これらは虚血性心疾患や脳卒中といった代表的循環器疾患の最も重要な危険因子であり、これらを十分に管理することが循環器病の発症を予防(一次予防)し、また再発も防ぐことになる(二次予防)。
現在では"メタボ"の名称が一般化した、メタボリックシンドロームは生活習慣病のさらに上流に位置する概念で、現在、メタボリックシンドロームを診断し、介入していくことが循環器病の発症を根元から抑えることになるため、医療政策的にも、とくに力が注がれている。
生活習慣病が集積しやすいことは古くから知られ、インスリン抵抗性を原因病態としてシンドロームX(1988)、死の四重奏(1989)、インスリン抵抗性症候群(1991)、また、大阪大学 松沢教授(当時)らが内臓脂肪の蓄積を原因病態と考えて内臓脂肪症候群(1992)といった概念を提唱していた。このような危険因子の集積がおもに動脈硬化性心血管病のリスクを、危険因子を単独で有する場合と比べて数倍高いとするエビデンスが蓄積されるようになり、国際的に診断基準を統一する機運が高まった。ここで生まれたのがWHOと米国NCEPが定めたメタボリックシンドロームである。
しかしながら、これらの基準は高度な肥満者の多い欧米人を基準としており、日本人では使用できないことなどから、日本人に合ったメタボリックシンドローム診断基準の必要性が唱えられ、2005年、8学会が合同で作成した日本版診断基準が発表された。この診断基準の最大の特徴は、メタボリックシンドロームの病態の最上流には松沢教授らが唱えてきた内臓脂肪蓄積の存在を重視し、腹囲の基準を必須項目とした点であろう。
男性85cm、女性90cm以上は、種々の生活習慣病の発症するCTによる内臓脂肪面積100
以上にあたる数値である。日本版診断基準の妥当性は、日本の代表的コホート研究である端野・壮瞥町研究において示されている。
メタボリックシンドロームと診断された人は、非メタボリックシンドローム群に比して、心疾患の発症をエンドポイントにした場合の相対危険度は1.83 (p=0.110)であり、統計的に有意ではないが、心イベントを多く発症する傾向にあった。かつて長寿で有名であった沖縄県では、近年男性の平均寿命が低下している。この原因が肥満・メタボの増加といわれており、メタボは明らかに心血管疾患のリスクである。
世界有数の長寿国家であるわが国において、今後望まれているのは健康で自立した健康長寿高齢者の増加であり、このためには、とくに脳卒中などの発症を予防していくことが急務である。高血圧症を代表とする生活習慣病、その集積であるメタボを減量、減塩、運動、禁煙、節酒などでまず予防・治療していくことが最も肝要である。
※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。