広報誌「かけはし」

■2012年11月 No.494
 
 
生活習慣病と社会生活に関連する睡眠時間と睡眠時無呼吸

 9月25日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。京都大学大学院 医学研究科 呼吸管理睡眠制御学講座 陳 和夫教授が「生活習慣病と社会生活に関連する睡眠時間と睡眠時無呼吸」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
 
 
陳 和夫 氏

 睡眠障害は現代社会の特徴の1つで高頻度にみられます。睡眠障害のなかで頻度が高いものには睡眠不足、不眠、睡眠呼吸障害などがあります。睡眠呼吸障害中、最も頻度が高い異常に睡眠時無呼吸があります。睡眠時無呼吸には、無呼吸中に呼吸努力を伴い呼吸再開時に通常大きな鼾(いびき)を伴う閉塞型睡眠時無呼吸(OSA)と、伴わない中枢型睡眠時無呼吸(CSA)がありますが、生活習慣病との関連が注目されているのは肥満の方に多いOSAです。ただし、東アジア人は顔面形態の遺伝的素因(口が小さい、下顎が後退しているなど)により、肥満がなくてもOSAが多いとされます。CSAの頻度はOSAと較べて低いのですが、すでに薬物治療などの既存治療が行われているにもかかわらず心不全患者にかなりの頻度で合併することが明らかになり、注目を集めています。
 OSAは2003年2月26日山陽新幹線の事故以来、眠気、認知力の低下などによりその存在が一般に知られるようになりましたが、日中の過度の眠気や作業能力の低下などに大きな影響を及ぼす睡眠時間の短縮にも注意を払う必要があります。最近の研究では、睡眠時間が短い人は将来の高血圧や糖尿病の発症率が有意に高いと報告されています。健常人においても、睡眠時間の制限により食欲増進物質が増え、抑制物質が減ると報告されています。睡眠時間が短いと脳心血管障害の頻度が増え、死亡率が高くなるとの報告もみられます。
 OSAと生活習慣病の関連は以前から注目されており、OSA患者の約50%に高血圧を、高血圧患者の約30%にOSAを合併すると考えられています。本邦の資料でも40歳代半ばの高血圧患者の26%にOSAの合併をみたとの報告がみられます。降圧剤を3剤以上投与しても血圧のコントロールが困難な高血圧を治療抵抗性高血圧と呼びますが、治療抵抗性の高血圧患者の60%以上にOSAを認めたとの報告もみられます。糖尿病とOSAの関連も注目されており、糖尿病患者を診療した場合OSAの存在を、OSA患者を診た場合、糖尿病の存在を意識して診療に当たるべきとの勧告もなされています。
 1時間の睡眠中に30回以上のOSAまたはOSA類似の異常呼吸があると、約10年以上の経過で脳心血管障害による死亡率が3倍近く増えるとされ、死亡率の上昇はOSAに対する持続気道陽圧(CPAP)治療により改善すると報告されています。CPAP治療は、口腔内装置とともに一定以上の基準を満たせば健康保険適用下で治療可能ですので、鼾が大きくて、高血圧があり、肥満傾向もあるなどOSAが疑われる方は医療機関に受診されることが勧められます。
 睡眠中の治療すべき異常呼吸があれば、適切に治療し、健康で充分な睡眠時間をとることは生活習慣病の改善、発症予防に寄与し、眠気や倦怠感のない快適で安全な社会生活を送るうえで重要であることが明らかになりつつあります。

※1 obstructive sleep apnea
※2 central sleep apnea
※3 continuous positive airway pressure

※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。