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10月2日、薬業年金会館で心の健康講座を開催。大阪市立大学大学院 医学研究科 神経精神医学 井上幸紀教授が「職場における最近のメンタルヘルス不調について」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨) |
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井上 幸紀 氏 |
厚生労働省は2011年に、4大疾病( がん・脳卒中・心臓病・糖尿病)に精神疾患を加えて5大疾病とし、今後積極的に対策を講じると発表しました。精神疾患は増加をしており、とくに職域においては情報化社会の到来に伴う社会環境の急激な変化などから、うつ病を中心としてさまざまな精神疾患が増えています。
「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスがあるか」という質問に対し、労働者の半数以上が「ある」と答えています(厚生労働省「労働者健康状況調査」より)。精神科外来を受診する労働者のなかにも、学生が就職後厳しい職場で不適応を起こした、ノーと言えないまじめで熱心な人が仕事で燃え尽きた、出世街道から外れた中年独身者が働く意欲をなくした、能力の高い女性が労働者・妻・母・娘など多くの役割を完璧にこなそうとして燃え尽きた、M&Aで突然風土の違う組織に組み込まれ不適応を生じた、猛烈社員とワークライフバランス重視型の社員など価値観の異なる社員間で葛藤が生じたなど、仕事上のストレスが関連した精神症状や身体症状をよく認めます。従来型のうつ病に加え、異なるタイプのうつ病(ディスチミア親和型うつ病、現代型うつ病、職場結合型うつ病など)も最近は増えているといわれています。これらへの対応では、職場の状態を含めて病態を正しく把握し、休養と投薬のみではなく、本人の認知面、組織風土、その双方への介入が必要となることも多いようです。
うつ病以外にも、統合失調症、発達障害や認知症なども職域では問題となりますが、これらへの職域における理解が十分ではないことも多く、注意が必要です。とくに、年金支給年齢の遅れによる定年延長などによる高齢労働者の増加は認知症のリスクを増やします。認知症が社長を含めた企業経営者に発症する場合もあり、適切に対応しないと企業の存続にまで影響します。精神科医が関わることによって正しく診断や対応を行い、治療によって症状を緩和することで、本人の治療だけでなく企業の存続危機に対応することも可能です。
精神科医には専門分野が多くあり(児童精神、老年精神、統合失調症、依存症関連―など)、全員が産業精神医学に精通しているわけではありません。職場にとって、行政の指針や手引きを念頭に職域と連携することができる精神科医を身近に確保しておくことは重要なこととなりつつあります。 |
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