■2012年10月 No.493
「マイナンバー」の議論を続行せよ
− 政局に埋没されることを危惧する −
国民一人ひとりに固有の番号を割り振り、納税記録や社会保障情報を一元管理する、いわゆる「マイナンバー法案」は、通常国会で継続審議となった。
同法案が2012年(平成24年)2月、国会に提出されてから半年。政府が進める社会保障と税の一体改革の柱である消費増税法案はなんとか成立にこぎ着けたが、マイナンバーは先送りとなった。政府は2015年1月からの運用を想定していたが、今後の政局も絡み、この構想そのものが埋もれかねないと危惧する。
同法案については、政党、学識者、マスコミなどで賛成、反対の意見が入り乱れていた。各意見とも都合のいい資料でもっともらしい説明をするので、国民は実際のところが分からないのが実情だ。前に大騒ぎして施行したが、一向に国民の間で浸透しない「住基ネット」と同じようなものだと思っている人も多い。
各マスコミは、とりあえずの慎重論が多く、論調としては「国会でさらに議論を尽くせ」「国民の理解が必要だ」「導入を急ぐ理由はない」などがあった。
学識者といわれる人の反対理由としては「プライバシー保護の問題」「社会保障給付抑制の道具になる」「費用対効果の問題」などがあった。
公が個人の必要な情報を把握することには違和感はないが、その取り扱いは慎重にしなければならない。「なりすまし」「流出」などは現在、すでにある問題だが、医療や年金、所得などの情報が、多岐にわたり不正利用された場合の被害は甚大であり、大きな問題となるだろう。それを防ぐには、最高情報責任者(CIO)を中心に情報漏洩には万全の対策を注がなければならない。
政府は、マイナンバー実施により年金、医療、介護、納税などを一元管理することで、所得に応じた社会保障費の負担や確実な給付、不正受給の防止を行えるとする。さらに、行政サービスの向上や、行政コストの削減などの効果が期待できるとしている。もっともな話であるが、これを「社会保障給付抑制につながる」という意見はどこか不思議である。
現状は自営業者らの所得が十分に把握できず、会社員との不公平感が根強くある。マイナンバーにより課税の公平性が確保されるのであれば、そこのところはだれも異論はない。初期費用等の費用対効果が不透明との意見も、正確な納税が担保できれば十分であるし、効果も表れるだろう。
そもそも、消費税増税の緩和策のひとつとして低所得者を対象に「給付付き税額控除」を実施するには、所得を正確につかむマイナンバーが不可欠である。増税ばかりが先行して、減税対策としてセットで進めなければならないマイナンバーを、切り離して議論することも疑問だ。今後国会の動きを注目したい。
(K・N)