広報誌「かけはし」

■2012年9月 No.492
 
 
生活習慣病予防のための運動処方

 8月9日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。立命館大学 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 真田樹義教授が「生活習慣病予防のための運動処方」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
 
 
真田 樹義 氏

◆身体不活動は死亡関連要因の第4位

 2004年に世界保健機関から死亡に関連する19の危険因子が発表されました。第1位は高血圧、第2位は喫煙、第3位は高血糖、そして第4位は身体不活動(運動不足)となりました。なんと、運動不足は第5位の肥満よりも死亡リスクとの関連が高いという驚きの結果でした。これは近年、運動スポーツと寿命との関連についての研究が世界中で増えたことと、信頼性の高い体力や身体活動量の測定が行えるようになったためであると考えられます。
 「運動は健康に良い」ということは頭ではわかっているという方がほとんどだと思いますが、最先端の研究から、「日常の活動量を増やすと長生きする」ということは真実だといえます。この理由としては、主に次の2つが考えられます。1つは心肺持久力を高めること、2つ目は筋肉量が維持できることです。

◆心肺持久力を高める
 心肺持久力は、専門的にいうと有酸素性能力、いわゆるスタミナを意味する言葉です。最近の研究では、高い心肺持久力は糖尿病や心臓病などさまざまな生活習慣病の罹患率や長寿と関係することがわかってきました。アメリカの数10年にも及ぶ大規模な縦断研究によれば、全身持久力が低い人は、高い人よりも4倍程度死亡するリスクが高くなるといわれています。日ごろからよく運動し、心肺持久力が高い人は、心肺の予備力(余裕力)が高いことから、同じ仕事量でも楽にこなすことができるため、酸素を無駄に使うことなく生活することができます。心肺持久力は、有酸素運動や身体活動量を増やすことによって高く保つことができます。

◆筋肉量を維持する
 加齢による筋量の低下は、30歳代後半から40歳にかけてはじまり、40歳以降は急激に減少するといわれています。このような加齢による筋肉量の減少をサルコペニアと呼び、最近話題となっています。これまでの研究から、サルコペニアは骨粗鬆症や糖尿病との関連が指摘されています。誰にでも起こりうる現象ですのでこれを完全に回避することは困難です。しかし、これまでの運動・トレーニングの研究をみると、中高年者でも軽めの筋力トレで筋量の増加が確認されていることから、加齢による筋量の減少を穏やかにすることは可能であると考えられます。
 一般に、加齢によって減りやすい筋肉は大腿前部(大腿四頭筋)と腹部(腹直筋)で、この部分の筋力トレはサルコペニアの予防に重要であるといえます。したがって、サルコペニア予防には、スクワットという脚の筋肉を鍛える筋トレや腹筋運動が欠かせません。また、大腿四頭筋と腹直筋は、立ったり座ったりする動作や姿勢を保持するときに使われる筋肉です。つまり、これらの部位の筋力トレは、中高年者が健康で活動的な日常生活を営むために優先して行いたい部位であるといえます。
 また、階段を使ったユニークな予防法があります。それは、階段下りです。階段を下る動作は、大腿四頭筋が伸ばされながら力が入りますので、筋トレの効果があります。階段を下りるときに腿の前あたりを意識してゆっくり下ると効果的です。ぜひお試しください。

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