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8月28日、薬業年金会館で心の健康講座を開催。大阪大学大学院 医学系研究科 精神医学教室 岩瀬真生助教が「よくわかるメンタルヘルス用語解説」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨) |
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岩瀬 真生 氏 |
メンタルヘルス用語はわかりにくいといわれるが、それにはいくつかの要因が関与していると考えられる。そうした要因には、精神疾患は主観的な症状が主体であり疾患そのものがイメージしづらいこと、特殊な専門用語が多いこと、日常用語と専門用語が混同して使われることがあること、診断体系が複数あり混在して使用されていることが挙げられる。とくに複数の診断体系が混在しているという問題は、他の身体科にはない精神医学に特有の現象といえる。
精神医学の診断体系は、想定される原因に基づいて病歴から診断される、いわゆる伝統診断といわれるものと、症状の組み合わせなどによりマニュアル化された手順に従って診断を行う操作診断に二分される。操作診断もアメリカ精神医学会が作成するDSM と世界保健機関(WHO)が作成するICD の2種類がある。臨床の現場ではDSMが頻用されるが、自立支援医療や精神障がい者手帳の診断名としてはICDが採用されている。また操作診断のマニュアル的側面を揶揄・危惧する風潮が年輩の精神科医を中心に存在し、伝統診断も根強く残っている。
精神科診断学の歴史を遡ると、もともとは伝統診断のみが存在していたのだが、伝統診断は診察した医師の経験や技量、診察時にたまたま患者が示した行動、発言に依存するため、診察医により診断が異なるという大きな問題点があった。そのため、精神科医間での共通言語の必要性から、診断の信頼性を重視した操作診断が作成されてきた。しかし、操作診断は信頼性を重視するあまり、疾患の原因や発生了解的な視点が欠如しており、精神医学の脱人間化をもたらしたとの批判もある。こうした事情から、多くの場合で操作診断を用いながらも、場当たり的に伝統診断と操作診断を使い分けてきたという状況が今日に至るまで続いている。
こうした状況下であることを踏まえ、主に操作診断であるDSMの病名のなかから、代表的なものである精神病性障害(統合失調症など)、気分障害(うつ病、躁うつ病)、不安障害、解離性障害、身体表現性障害、睡眠障害、性同一性障害、摂食障害、適応障害、認知症、てんかんなどについて一通り概説し、これらの診断名と関係の深い伝統診断名(ヒステリー、神経症など)についても解説した。
また精神科治療の重要な柱である薬物療法、精神療法、身体療法(電気けいれん療法)、精神科リハビリテーションについても概説した。その他、近年注目を浴びている、うつ状態に対する近赤外線トポグラフィーによる鑑別診断や磁気刺激治療についても概説し、その効用と限界について紹介した。
最後に精神障がい者数は、高齢化社会、ストレス社会の進行に伴い認知症、うつ病を中心に増加しており、これらの治療、支援、予防にどのように立ち向かうかは精神保健上の重大な問題になっていることを指摘した。 |
※1 |
Diagnostic and Statistical Manual for Mental Disorders |
※2 |
International statistical Classification of Disease and related health problem |
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