広報誌「かけはし」

■2012年8月 No.491

事 業 報 告 の 概 要

1.健康保険組合をめぐる情勢

 (1) 政治・経済の動向

 平成23年9月に現政権の野田内閣が発足した。政治が迷走し、政治不信が募る中で菅首相が退陣し、野田首相が民主党政権として3人目95代首相となった。所信表明演説では、東日本大震災の復旧・復興、円高対応など日本経済の建て直しを政権運営の最優先課題として位置づけ、「社会保障と税の一体改革」は7月に閣議報告された「成案」を土台に与野党協議を重ね、24年の通常国会に一体改革の関連法案を提出する意向を表明した。小宮山新厚労相は、衆議院厚生労働委員会において、社会保障・税一体改革については、「極めて重要な課題」と位置づけ、改革の実現に向け厚労省挙げて取り組んでいきたいと決意表明するとともに、医療・医療保険制度については、国民の安心の実現に直結する重要課題との認識を示し、国民の信頼に応え得る医療保険制度および医療提供体制の構築に取り組んでいくと述べた。
 また、平成24年1月の野田改造内閣の基本方針のなかで、平成24年を「日本再生元年」と位置づけ、「社会保障・税一体改革」の着実な実行を目標の一つに掲げ、社会保障の強化・機能維持を確実に実施し、そのための安定財源の確保と財政健全化の同時達成を目指すと強調した。
 一方、経済面からは、足踏み状態から抜け出したいという思惑は、東日本大震災や金融市場では株価暴落、円高が進み、さらに日本全体にわたる自粛ムードが足どりを重くし、夏場からは、欧米の財政金融危機が日本経済の足を引っ張り、多くの重い課題を残しつつ、先行き不透明感が漂っている。

 (2) 社会保障と税の一体改革の動向

@ 社会保障と税の一体改革成案を決定
   社会保障と税の一体改革については、平成22年10月に政府・与党社会保障改革検討本部を設置して、社会保障改革に関する有識者会議を開催、平成23年2月から6月にかけては、社会保障改革に関する集中検討会議を開催した。また「民主党社会保障と税の抜本改革調査会」等において取りまとめが行われた。そして政府・与党社会保障改革検討本部は、平成23年6月、「社会保障・税一体改革成案」を決定して、7月1日の閣議に報告した。
 消費税増税は、「2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げ、当面の社会保障にかかる安定財源を確保する」とした。また、社会保障改革のうち、医療・介護分野は、高齢者医療費の支援金と介護納付金の総報酬割の導入、被用者保険の適用拡大、総合合算制度などを明記。政府は成案をもとに各制度の改革案を詰め、24年の通常国会に税制改革関連法案と社会保障関連の個別改革法案の提出をめざす方針とした。
 健保連では平井会長が7月7日「一体改革成案」に対する談話を発表し、「一体改革成案は、一部評価できる部分があるものの、目指すべき社会保障制度の姿、道筋が示されていない」として懸念を表明した。具体的には、支援金の総報酬割の導入には、後期高齢者への公費拡充と前期高齢者への新たな公費投入・拡充がない限り容認できない。また、介護納付金の総報酬割導入は、健保組合への負担の転嫁であると反対姿勢を明らかにした。そして医療費等の適正化の視点からは、給付と提供体制の重点化・効率化を推進するよう要請し、さらに短時間労働者の被用者保険の適用拡大は、特定の医療保険者の財政に与える影響を危惧し、慎重な検討が必要であると提起した。
A 成案の具体化へ検討開始
   平成23年10月、民主党の社会保障と税の一体改革調査会・税制調査会の合同総会では、成案の具体化へ検討を開始し、12月をメドに党内意見の集約をめざすこととした。
 12月上旬には、厚労省社会保障改革推進本部が政府・与党が年内に集約する一体改革法案のタタキ台「中間報告」をまとめた。医療分野の改革は、受診時定額負担の導入や70〜74歳の患者負担2割への引き上げなど多くの項目を検討課題にとどめた。
 また政府・与党は、野田首相の指示もあり、一体改革論議が本格化するなかで負担増の反発は根強く、調整作業は難航必至の状況であった。
 そして政府・与党社会保障改革本部は、「社会保障税一体改革素案」を平成24年1月上旬に決定した。最大の争点となった消費税率は平成26年4月に8%、27年10月に10%に引き上げるとし、政府は野党に協議を呼びかけ、年度内に一体改革大綱を閣議決定し、関連法案を通常国会に提出する方針を示した。
 2月には、一体改革大綱を閣議決定したが、与野党協議が不調のなか、野田首相は決意を改めて表明したが、先行きは不透明である。

 (3) 健保連の主な活動状況

@ 平成24年度予算概算要求へ要望書提出
   平成23年5月、健保連は「平成24年度予算概算要求に向けた個別要望事項」をまとめ、厚労省に提出した。
 平成23年度は、過去最悪の4割の健保組合が保険料率を引き上げたにもかかわらず6000億円を超す赤字を計上するなど、健保組合の深刻な財政状況を訴え、負担増緩和策の継続・拡充など、適切な措置を講じるよう要望した。
 また、民主党へは6月、健保財政が厳しい状況にあることに加え、東日本大震災の影響による保険料収入の減少や医療費の増加を踏まえ財政支援の継続・強化を要望した。
A 24年度診療報酬改定に関する要望
   中医協の支払側委員6団体は、平成23年11月健保連の平井会長ら各団体の会長、理事長、組合長の連名による「平成24年度診療報酬改定に関する要望」を小宮山厚労相に提出し、医療保険制度の危機的な財政悪化の状況などを踏まえ引き上げ改定を回避するよう求めた。
B 平成23年度健保組合全国大会
   平成23年11月、東京国際フォーラムで健保組合全国大会を開催し、「皆保険維持に向け、納得できる公平な負担を!」を副呼称に、@現役世代が納得できる公平な制度改革の早期実現、A高齢者医療制度に対する公費投入の拡充と安定財源の確保、B制度の維持安定に不可欠な健保組合方式の堅持、C改革実現までの健保組合に対する財政支援の実施、の4項目を会員健保組合の総意として決議した。また、当日は関係省庁、政党、国会議員に対して、健保組合の窮状を訴える要請活動を実施した。
C 平井会長 新年の挨拶
   昨年の全国大会での4項目のスローガンの実現を期すとともに、健保組合は、自主自立の精神に基づいて「健康を創り・守る」ために保険者機能を十分に発揮し、さらなる充実・強化を図っており、それが重要な存在意義の一つであると自負しており、これからも「保険者機能を最も効果的に発揮できる健保組合方式」を制度の中核としており、発展させていきたい、との強い決意を述べた。
D 健保連が「医療保険制度改革の考え方」を公表
   平成24年3月、健保連は、社会保障・税の一体改革への対応の一環として、健保組合将来財政の概算と、これを踏まえた「一体改革の考え方」をまとめた。
 概算で明らかになった組合財政の窮状を背景に、高齢者医療制度への公費拡大の必要性を改めて提案した。

 (4) 健保組合の状況

@ 健保組合数
   健保組合は、平成23年4月1日現在、1447組合となっている。健保組合数は、平成4年の1827組合をピークに解散、合併により年々減少しており、財政状況の厳しさを如実に表している。特に解散組合は過去5年間で68組合にも上っている。
A 平成22年度健保組合決算概要
   経常収支は、4154億円の赤字で、3年連続で全組合の76.5%が赤字計上した。
 赤字額が前年度より約1080億円改善したのは、全組合の3割(415組合)が保険料率を引き上げ、保険料収入の確保に努めたことが主な要因である。義務的経費の保険料収入に対する割合は、99.1%と高い水準にあり、極めて厳しい財政運営が強いられている状況が続いている。
B 平成23年度健保組合予算概要
   経常収支は、6089億円の大幅赤字となっている。赤字予算は4年連続で、全組合の約9割が赤字を計上している。
 前年度に比べると赤字額は532億円改善しているが、これは保険料率の引き上げ組合が、過去最高の527組合と、全組合の約4割にもなっていることが主な要因である。しかし、義務的経費の保険料収入に対する割合は100%を超えているという厳しい財政状況となっている。

 (5) その他関連状況

@ 平成21年度国民医療費の概況
   厚生労働省が平成23年9月に公表した平成21年度国民医療費の概況によると、総額が36兆0067億円、1人当たり医療費は28万2400円でどちらも過去最高を記録した。人口の高齢化に伴う自然増が主な要因となっている。また、国民所得が前年度比で3.6%も減少しており、国民所得に対する国民医療費の割合は、10.61%となり、初めて10%を超えた。
A 平成24年度診療報酬改定
   平成23年12月、政府は、平成24年度の診療報酬改定率について、医師の技術料などに相当する診療報酬本体を1.38%引き上げ、薬価改定等で1.38%引き下げるとして、ネットで0.004%引き上げると決定した。
 なお、介護報酬改定は、1.2%の引き上げとなっている。

2.大阪連合会の事業活動概要
 大阪連合会では、理事会や各委員会で時宜に応じた活発な論議を展開した。特に、高齢者医療制度改革における公費拡充については、関係各方面に理解と支援を強く要請するなど、全健保組合が一丸となって取り組んだ。また、円滑な事業運営に資するための各種事業を実施した。

 (1) 22年度健保組合決算見込(大阪分)集計

 大阪181組合の22年度決算見込では、被保険者数は減少(4.7%)、被扶養者数も減少(5.5%)、標準報酬月額は36万2922円で0.7%減少、賞与額は5.6%増加した。1人当たりの法定給付費は23.6万円で7000円増加、納付金等は17.3万円で3000円減少した。保険料収入に対する納付金等の割合は43.2%と若干好転した。経常収支は633億円の赤字で、147組合(81.2%)が赤字組合であった。

 (2) 23年度健保組合予算(大阪分)集計

 大阪178組合の23年度予算では、前年度比でみると、被保険者数は減少(5.27%)、被扶養者数も減少(6.75%)、標準報酬月額は36万4129円で1.01%増加、賞与額は8.13%増加した。1人当たりの法定給付費は24.8万円で1.1万円増加し、納付金等は19.4万円で2.2万円増加した。保険料収入に対する納付金等の割合は46.75%と2.7%増加した。赤字予算は166組合で計上され、経常収支は1073億円の赤字と厳しい財政状況が続いている。

 (3) 広報活動(広報委員会関係)

 機関誌「かけはし」および「ホームページ」を通じ、高齢者医療制度改革・柔道整復施術等関係情報・健康づくり情報など、健保組合をめぐる情勢および健保連の考え方や各種情報を掲載するとともに、大阪連合会の総会・理事会・委員会・地区会活動など主要な事業活動の広報に努めた。

 (4) 組合業務支援活動(組合業務委員会関係)

 健保組合役職員の資質向上と連帯感の醸成に有効な個人情報保護講習会、初任者実務講習会、組合担当者実務講習会、パソコン研修会、事務長研修会等を開催した。

 (5) 医療費適正化対策活動(医療給付委員会関係)

 歯科レセプト点検事務研修会、求償事務研修会、柔道整復等療養費適正化講習会やレセプト相談・法律相談等の諸事業を実施して医療費適正化を図り、会員組合の財政健全化に務めた。また、支払基金に対して、事務連絡協議会を通じて審査など問題点の解決を要請した。

 (6) 健康開発共同事業推進活動(保健共同事業委員会関係)

 保険者に義務づけられた特定健診・特定保健指導に関連して、効果的ながん対策など生活習慣病の予防と対策、またメンタルヘルス、救命講習会等をテーマに健康教育を実施したほか、契約保養所・プール施設の利用促進・各種イベントの後援や協賛等、多方面からの推進を図った。
 また、保健師活動では、健保組合における特定保健指導を支援するとともに、保健師連絡協議会での保健活動を支援した。

 (7) 総合組合活動(総合組合委員会関係)

 総合組合の運営に資するため、財政状況分析など調査・研究し、有効活用を図った。

           
   
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