■2012年8月 No.491
合点いかない納付金と交付金
− 前期高齢者医療を根本的に見直せ −
国民健康保険運営協議会に出席すると、合点がいかない場面にたびたび出くわす。例えば、ある市の国保担当者が誇らしげに国保決算に関してこんな説明……。「保険料収納率は前年度より向上して91.7%となりました」われわれ健保組合サイドの見方とは、まるで違う。(われわれの感想=健保組合の保険料徴収状況は毎年度ほぼ100%なのだ)
担当者の説明はさらに続く。「収納率の向上にともない大阪府各市平均との差はさらに広がりました」(都道府県別にみると、大阪府は平成22年度86.7%、全国42位で最下位に近い。比較の物差しが違うのではないか)
「1人当たり療養諸費は他市より高く、とくに循環器系疾患が高くなっています」(医療費分析をするのはいいが、高機能の市立病院を持っていることこそ医療費を押し上げている大きな要因なのではなかろうか)
極めつけは、「決算歳入の部の『前期高齢者交付金』は支払基金から交付されるものです」(確かに事務の流れとしてはそうだろう。けれども、あまりに説明不足ではないのか。交付金の原資は健保組合などからの血のにじむような前期高齢者納付金なのだ。この納付金のせいで健保組合は軒並み大幅な赤字を計上、解散の危機にまで直面しているのに……)
国保運営協議会は、保険料率設定や特定健診・保健指導など国保の運営について審議するため各市町村に設置されている。昭和59年(1984年)退職者医療制度の創設にともない、健保組合など被用者保険の保険者から国保へ拠出金を出すようになって以来、被用者保険関係者もメンバーとなった。退職者医療制度は現在、前期高齢者医療に置き換わっているが、制度の骨格に変わりはなく、われわれは協議会の席で、問題点を平易かつソフトに質したり補足の説明を加えたりしている。
それにしても、国保の前期高齢者交付金については、協議会で配布される決算関係資料に違和感を覚える。国保の会計では前期高齢者交付金は、歳入の部において被保険者からの保険料収入や、療養の給付にかかる国庫負担金などと同列に科目が設定されているのに対して、歳出の部において使途科目(しばり)がない。
前期高齢者の加入割合に応じて、各保険者の医療費負担を調整するため、加入割合が低い健保組合は納付金を支出する。逆に加入割合が高い市町村国保は交付金を受けるが、極端な話をいうと、どんぶりで受けて前期高齢者以外の国保被保険者の医療費にあててもかまわない仕組みになっている。
平成22年度の決算(全国値)を比較してみると、市町村国保の単年度収支差引額は294億円の黒字。黒字市町村が820、赤字市町村が901。一方、健保組合は4154億円の赤字。黒字組合が343、赤字組合が1115で赤字組合の割合が76.5%。交付金を受ける側が収支バランスを保っているのに対して、納付金を出す側は大きな赤字を背負う。制度の違いで両者の単純比較は難しいにせよ、それを勘案してもやはり合点がいかない。高齢者医療制度、とりわけ前期高齢者医療の仕組みは根本的に見直すべきだ。
(T・M)