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メンタル疾患への適切な対応で医療費は適正化する

〜 うつでも働ける環境づくりを 〜 |
5月30日、薬業年金会館で心の健康講座を開催。大阪大学大学院 医学系研究科 石蔵文信准教授(保健学専攻)が「メンタル疾患への適切な対応で医療費は適正化する〜うつでも働ける環境づくりを〜」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨) |
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石蔵 文信 氏 |
健保連大阪連合会のホームページにある「かけはしバックナンバー」から"投稿 言わしてんか!聞いてんか!"を読ませていただきました。そこには増え続ける拠出金と医療費で担当者から悲鳴のような投稿がたくさんありました。全組合の約9割が赤字、高齢者医療制度創設以降、5年連続の大幅赤字、平成24年度予算は5782億円の経常赤字で全組合の約4割が保険料率を引き上げざるを得ない異常な状態になっているのは当事者以外でもかなり心配します。国民皆保険制度が音をたてて崩れていくのも遠い先の話ではないようです。政府も健保組合もジェネリック薬の使用を強力に勧め、過剰医療のチェックが年々厳しくなっています。われわれの仲間もレセプトのチェックが厳しいと嘆いています。私からみれば、これは小手先の対応でいずれ万策が尽きるのではないかと思います。では、医療費を少なくするよい方法はないのでしょうか?私はメンタル疾患に適切に対応することで医療費がかなり削減できるのではないかと考えています。
"病は気から"で、現在どの診療科でも受診者の20〜30%はメンタル疾患ではないかといわれています。うつ病や不安障害の一歩手前では自律神経の働きが不調になり、頭痛、耳鳴、のぼせ、多汗、めまい、口渇、肩こり、腰痛、動悸、胸痛、胃痛、便秘、下痢、冷感などの症状がおきます。中年の女性におきる更年期障害とほぼ同じ症状です。多くはメンタルストレスが原因ですが、症状に関係する診療科、たとえば頭痛なら脳外科、動悸なら循環器科、めまいなら耳鼻科、女性なら更年期科を受診されるでしょう。
日本にはCTやMRIがやたらにあります。医師も誤診を恐れて高価な診断装置を使って念入りに検査しようとします。国民皆保険制度のお陰で、自己負担が少ないので患者さんも医師の言われるままに検査を受け、病気が見つからなかったら、対症療法的な薬を処方されることが多いようです。症状が改善しない患者さんはますます高度な医療機関を受診し、再検査を受けることになります。そうこうしているうちに症状は悪化し、医療費だけが膨れ上がるのです。
私の外来には、このような病院ショッピングを続けた患者さんが多く受診します。私はしっかりと話を聞き、薬や検査を最小限にすることを目標にしています。こんな治療は患者さんなどにはよいかもしれませんが、病院経営者からすると稼がないダメな医者かも知れません。私の外来を受診する患者さんの2年前までの受診歴を検討すると、年間平均20万円(多い方では50万円以上)の医療費が使われていたことがわかりました。受診後は約半年でほとんど無治療。無投薬か数カ月に一度の診察になるので医療費はかなり削減できます。このような患者さんが一生同じ治療を受けていたら生涯医療費は500万円を超えると思われます。この方法で医療費が削減できるばかりか、不快な症状がなくなった患者さんのパーフォーマンスが上がり会社の業績も上がることでしょう。また、何カ月も休むとその休業補償(傷病手当金)も大変な負担になります。メンタル疾患にしっかりと取り組むことで、医療費の適正化ができると私は固く信じています。
しかし、メンタル疾患にしっかり対応するにはしっかりと患者さんの訴えに耳を傾けて、丁寧な指導が必要です。現在の医療保険ではそんな治療に十分な料金が設定されていません。そのためにそのような取り組みをする医師はかなり少ないようです。解決方法はないのでしょうか?私は勤労者のうつ病や不安障害に重点を置いて診療し、アドバイスする医師が必要ではないかと感じています。会社などが十分な報酬を支払ってそのような医師をコンサルタントにすることは可能かも知れません。現在われわれは、こんな方向性で活動をしております。もしご希望の会社などがあれば実証研究として参加させていただくことは可能です。 |
連絡先 |
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(ishikura@sahs.med.osaka-u.ac.jp) |
近 著 |
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「男のうつ」治らなくても働ける!(日本経済新聞出版社)
日本人が安心して死ねない99の理由:世界最高の医療を守るためのヒント(日本印刷株式会社) |
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