■2012年1月 No.484
国の至宝「皆保険」の永続を
− 2012年・年頭に思う −
2012年(平成24年)を迎え、「今年こそよい一年であるように」と願わずにはいられない。
昨年は、未曾有の大災害となった東日本大震災の発生と、それにともなう福島第一原発の事故が最大の事件であった。後者については、わが国が初めて経験する最悪の原発事故となり、後の世代に数十年の長きにわたる負の遺産を残すこととなった。
日本社会がいま抱える「負の遺産」の多くは、バブル崩壊後10年間の国政の舵取りに主因があるといえようが、現役世代の一人ひとりにも責任なしとはならないであろう。少子高齢社会にせよ、国内産業の空洞化にせよ、1000兆円を超える国の債務にせよ、結果的にわれわれが望んだものではないが、時の流れのなかで冷静な視点を持ちえないまま、そのときどきで政策に踊った結果であることは紛れもない事実である。
昨年末に「坂の上の雲」の第三部が放送され、シリーズが完結した。明治期の人々の熱く高い志に思いを致すとき、現代のわれわれの姿に忸怩(じくじ)たる感を抱くと同時に、いま目の前の現実を見据えつつ、目先の利益追求ではなく国家百年の計に思いを巡らすことができるかどうか、この一点に次の世代の未来がかかっている、と強く感じるのである。
健康保険事業に携わる身として、この10年来の社会変動にともなう医療保険制度の歪みが、いま極めて重く肩にのしかかってきている。
健康保険組合の財政にとって、高齢者医療制度への拠出金があまりにも大きい負担となっていることは周知の事実であり、社会保障財源をはじめ、医療制度全体への精緻な検証と将来にわたるグランドデザインを示すことが、いまほど求められているときはない。
昨年11月21日に開催された平成23年度健康保険組合全国大会において、健保連の平井会長が基調演説で述べたように、「国の至宝である皆保険を崩壊させる"国難"は絶対に避けなければならない」のである。
最大の課題は、社会保障制度の財源のあり方にあろうが、「社会保障・税一体改革」においては、複雑に絡み合った脳神経を一つひとつ解きほぐすような、医師の熟練に等しい改革手腕が求められている。「高齢者医療制度改革」といい「診療報酬改定」といい、小手先の改定にとどまらず、この国を100年の永きにわたってどのように育んでいくのか、その道筋を示す燈明(とうみょう)とならんことを切に望むものである。
国民皆保険50周年を超えて、次の50年もこの国の至宝を健全な形で次世代の若者へ手渡すために、世代を超えてすべての関係者の意思と英知の結集を図り、良識にもとづいた公平な制度改革を実現しなければならない。いま、まさにこのときの決断に日本の未来がかかっている、と強く思うのである。
(K・M)