広報誌「かけはし」
 
■2011年12月 No.483
時評

良質で効率的な医療制度を

− 国民医療費、36兆円突破 −


 厚生労働省がまとめた平成21年度(2009年度)の国民医療費推計によると、総額は36兆67億円で過去最高額に達した。この額は、同年度の国の一般会計税収額38兆7331億円に匹敵する。
 前年度と比べると、国民医療費の伸び率は3.4%、これに対して国民所得は3.6%減。したがって、国民医療費の国民所得に対する割合が10.61%とさらに大きくなり、初めて10%の大台を超えた。
 21年度には診療報酬改定がなかったため、国民医療費の増加要因は、高齢化と医療の高度化にともなう自然増である。また、伸び率3.4%ということで、国民医療費は1兆円を軽く上回って増えているのが裏づけられた。年齢階級別にみると、総額約36兆円のうち55.4%が65歳以上の医療費となっており、高齢化のさらなる進展が確実なことから、なんらかの適正化対策なしには、今後も医療費の増加が必至である。
 国の財政難が明らかななかで医療と医療費のレベルをどうするか、難しい課題となっている。日本では国民医療費の伸びを国民所得の伸びの範囲内に抑えることが国の政策目標とされていた時期もあった。けれども国民所得の減少や高齢化が顕著な昨今、それは困難だろう。
 他方、国民医療費の対GDPシェアをOECD加盟諸国並みに、との意見もある。現在、日本は8.5%で24位。平均はスペイン、イタ リアなどの9.5%で、このレベルまで医療費の割合を高めてはという議論である。
 しかし、国によって医療制度の仕組みや医療事情に大きな違いがある。いちがいに「先進欧米諸国並みに」と論じるのは乱暴ではないか。アメリカのように公的医療保険の範囲がごく限られている国もあるが、ほとんどの医療が公的保険の対象なのが日本である。高すぎる医療費では、国民が支持する皆保険制度がもたない。
 日本は諸外国に比べて、人口当たりの病床数が多いことや1人当たりの入院日数が長いことなど、諸外国とまるで違った面もあり、これらの適正化が求められる。
 折しも厚労大臣の諮問機関である中医協(中央社会保険医療協議会)で、24年度の診療報酬改定へ向けて検討の真最中だ。2年に一度の改定だが、今回も前回に引き続き、4つの視点に沿って個別、具体的な医療行為ごとに診療報酬改定が行われる。その視点は@充実が求められる分野を適切に評価していくA患者等からみてわかりやすく納得でき、安心・安全で生活の質にも配慮した医療を実現するB医療機能の分化と連携等を通じて、質が高く効率的な医療を実現するC効率化余地があると思われる領域を適正化すること―である。
 われわれは、「視点」のような医療改善の方向性を支持する。そして、真の医療費適正化対策を組み入れるべきである。医療費亡国は望まない。
  (T・M)