広報誌「かけはし」

■2011年9月 No.480
 
 
生活習慣病と健康寿命

〜食生活の見直しで病気知らず〜

 9月5日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。同志社大学大学院 生命医科学研究科 教授 市川 寛氏が「生活習慣病と健康寿命〜食生活の見直しで病気知らず〜」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
 
 
市川 寛 氏
 第二次世界大戦後、日本人の平均寿命は徐々に伸び続け、現在日本は長寿大国とみなされている。この事実は、日本における医療技術の進歩に寄与するところにも大きいが、健康的な生活習慣を確立することにより疾病の発症を予防することがより重要であるという考え方が近年強くなってきてからは、なかでも食生活と平均余命との関係がクローズアップされてきた。
 ところが、戦後の欧米文化の流入とともに、数千年の間徐々に進化してきた日本人の食生活は、ほんの数十年の間に、欧米化へと一気に変貌を遂げてしまった。たとえば、必要以上のカロリーのとりすぎ、とくに過剰な脂肪摂取の結果、男女ともにその疾患構成に変化がみられ、大腸がんの増加、男性の前立腺がん、女性の乳がんの急増など、非常に重大な社会問題となってきているのである。
 ところで、人間が生きていくために必要な栄養素のうち、とくに重要なものは、体を動かすエネルギー源となる「三大栄養素」といわれる糖質(炭水化物)、蛋白質、脂肪(脂質)である。しかしながら、現代日本人は、糖質・脂質・動物性蛋白質はとりすぎ、植物性蛋白質はやや不足気味で、カロリーは消費エネルギーに比較して、全体的にやや過剰摂取しており、さらに、ミネラルでは塩分とリン酸塩の摂取量が過剰で、それ以外のビタミン・ミネラル・食物繊維などの副栄養素が不足しているのが現状である。すなわち、日本人は、豊かな食事に恩恵を被っていても、現実的には栄養不足状態といっても過言ではないといえる。
 摂取したカロリーを、効率よく過不足なくエネルギーに変換するには、それに見合った量の、ビタミンをはじめとする副栄養素の摂取が最低限満たされていなければ、代謝は制限されてしまう。残念ながら、現代日本人の食生活だけで、すべての必須栄養物質を過不足なく摂取することは困難といわざるを得ない。また、現代の日本人は、今日に至るまでにさまざまなストレス、とりわけ活性酸素に関連する「酸化ストレス」に暴露されてきた可能性が高く、生活習慣病につながる多くの機能障害が知らず知らずのうちに身体内で進行している危険性をはらんでいる。
 日本においては豊富な食材、手軽に食べられる食環境、溢れる食情報は、私たちの食生活があたかも充実しているかのごとく錯覚を起こさせるが、その本質は、まったく異なるものであることを全員が自覚しなければならないのである。「食」による生活習慣病予防の実践には、国民すべてが「食」の情報に敏感でありつつ、真に正しいものを見極める知識を備えつけることが重要ではないだろうか。

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