広報誌「かけはし」

■2011年8月 No.479
 
 
心とからだの調和
〜リラクセーションの実践〜

 7月11日、薬業年金会館で心の健康講座を開催。帝恷R大学大学院教授 神澤 創 氏が「心とからだの調和〜リラクセーションの実践」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
 ◆ 心とからだの関係について
 

 

神澤 創 氏

 ギリシャ時代、魂は独立した存在で、生きている間は肉体のなかに閉じ込められているが、死によって解放される、と考えられていたそうです。このような考え方は世界各地にみられますが、いまのところ魂の重さや大きさを正確に測ったという報告は聞いたことがありません。つまり、人間の心の働きを実体化し、からだと切り離して考えることには無理があるようです。
 さて、「喜び」や「悲しみ」などの感情は誰もが日常的に経験するもので、「痛み」の感覚などは健康を維持していくうえで欠くべからざるものです。痛みがあるおかげで人間は心身の不調に気づくことができるのですから。ところが、痛みの感じかたには個人差が大きく、痛みそれ自体を機械的に測定することはできません。また、痛みには感情が大きく関与しており、不安や緊張が身体的な症状を形成する場合も少なくありません。激しい緊張でおなかが痛くなったり、頭痛がしたりといった経験をお持ちのかたは少なくないはずです。また、身体的な疲労が重なって気分がふさぎ込んだりすることもあります。過重労働に起因するうつ状態などはこれにあたります。
 このように、心の状態がからだに影響を与えたり、逆にからだの不調が心の問題を引き起こしたりしている場合(心身相互作用)は、どちらか一方だけを相手にしてもなかなかうまくいかないようです。つまり、心とからだを分けて考えることにはあまり意味がなく、その両者を1人の人間の異なった側面として全体的にみていかなければ健康には結びつかないのです。心とからだのバランスに注意することが健康を考える基本であり、どちらか一方に偏った考え方は危険でさえあります。
 ◆ 「加減をわきまえる」
 この「全体的」にという言葉には、その人の生活全体が含まれるのですが、現代人はつい無理をしてしまうことが多いようです。効率を最優先に考えて、時間に追われる生活を送り、からだからの危険信号を無視しがちです。イライラを募らせながら働いても決して能率はよくないはずなのですが、少し休憩をとるという方向に頭が働かなくなっている人も少なくありません。無理が重なって適切な判断(休むこと)ができなくなっているわけです。そうならないためには、自分の能力にあった作業の質と量(加減)をわきまえることです。無理を続けると、文字どおり「身も心も」ガタガタになってしまうかもしれません。
 ◆ リラクセーションについて
 ボディワークはからだに働きかけることによって心の状態に気づき、元の健康な状態を取り戻そうとする試みです。リラクセーションというと「力を抜くこと」が強調されがちですが、私は「無駄な力が入っていない状態」と考えています。人間のからだには多少の緊張も必要です。ただ脱力するだけではなく、必要最小限の力を用いて、自分のからだを動かし、意識することができるようになれば、バランスのとれた、無理のない人生が送れるのではないでしょうか。今回ご紹介するリラクセーションのためのボディワークが、その「加減」を知るツールとして役立つことを願っております。


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