広報誌「かけはし」

■2011年8月 No.479
 
 
動脈硬化の裏でうごめくもの 悪い生活習慣は何か?

 8月2日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。大阪府立健康科学センター 健康度測定部 参事(兼)医長 岡田武夫氏が「動脈硬化の裏でうごめくもの 悪い生活習慣は何か?」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
 
 
岡田 武夫 氏

◆肥満だけではない動脈硬化の原因

 動脈硬化により脳卒中や虚血性心疾患が起こる。血圧値が高いほど脳卒中の発症は増加し、コレステロールが増加すれば虚血性心疾患の発症が増加する。肥満があれば高血圧や糖尿病の頻度が増加するが、肥満でなくても高血圧や糖尿病は発症する。その結果、肥満にだけ着目すると、多くの高血圧や糖尿病患者を見逃すことになりかねない。住民健診のデータでも、肥満がなく高血圧などのリスクを抱えるもので、循環器疾患による死亡の危険度が上昇している。一方で、肥満であってもリスクを持たないものは死亡の危険度が低い。海外のデータでも、肥満よりも喫煙のリスクが高いという。また、アルコールの過飲は死亡率を上昇させていることが広く知られている。

◆特定保健指導の成果
 特定保健指導では減量の指導が主となる。健康科学センターの実績でみると、動機づけ支援よりも、定期的に面接を行うこと、生活指導開始時に詳細な検査を行って身体状況を細かく把握させることが生活習慣の改善に役立つものと考えられる。
 減量に成功した群とそうでない群を比較すると、「お腹いっぱい食べる」「油料理をほぼ毎日食べる」「間食・夜食をほぼ毎日とる」習慣を改善したものが減量に成功した群で多くみられる。その他、「砂糖入り飲料をほぼ毎日のむ」「卵をほぼ毎日食べる」「脂身の多い肉類を食べる」習慣を改善したものが減量に成功した群で多い傾向がある。また、アンケートによると、減量に成功した人たちは「健康状態を明確に伝えられたことで動機ができた」「体重などを記録することで続ける意欲がわいた」という人が多い。
 詳細な検査を行って動機づけとし、定期的に運動や食事指導を行った例では、内臓脂肪のみならず皮下脂肪も顕著に減少したものが多くみられた。そのような例では血圧が低下することが多く、耐糖能も大幅に改善している。体組成を経時的に詳しく知り、運動量や体重などを記録することが生活習慣改善の大きな動機づけになっていた。

◆若年者の動向
 健康科学センターのデータでみると、肥満者は、生活指導の効果があるのか、中高年では近年減少する傾向がみられる。若い層では、男女ともに「やせ」が増加しており、女性ではそれが中年以降へも波及しているようにみえる。男性では「やせ」の者で貧血の傾向が強く、女性ではむしろ肥満者で貧血の傾向がある。コレステロール値は「やせ」の者で低い傾向がある。また、歩行数と自動車などの保有率には逆比例の関係がみられるなど地域の特性にも違いがある。生活環境の変化が健康状況にどのような影響をもたらすか、興味深いところである。

◆温故知新
 江戸時代の俳人が作ったとされる「健康十訓」には、肥満対策、高血圧対策、ストレス対策として現在でも通用する示唆が多く含まれていて興味深い。しかし、食事の時間ひとつをとっても過去の農村社会と現在とは異なる。先人の知恵を現在に生かすためにさまざまな工夫が必要である。

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