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6月28日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。滋賀医科大学 社会医学講座公衆衛生学部門
三浦克之教授が「生活習慣病予防の考え方と医療費への効果」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨) |
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三浦 克之 氏 |

◆生活習慣病の中身
日本人の死亡原因の60%近くを「生活習慣病」が占めています。そのうち、がんが半分、心臓病と脳卒中を合わせた循環器病が残り半分を占めます。1960年代に猛威をふるった脳卒中の死亡率は大きく低下してきましたが、脳卒中の中身は血管が破れる脳出血から血管が詰まる脳梗塞へと変化し、また、介護の原因としても最大のものとなっています。さらに、入院期間が長い脳卒中は多くの医療費を使います。一方、心臓病による死亡の半分を心筋梗塞が占めており、こちらはとくに男性で増加が予想されています。時として死に至るこれらの重篤な生活習慣病を予防することが大事であり、また、実際に予防が可能です。
◆危険因子とは
脳卒中や心臓病がどんな人で起こりやすいかは、ほぼ解明されています。これが「危険因子」です。高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、それに喫煙の4つの危険因子でほとんどが予測可能です。この4つがない人はほとんどかかりません。現在はこれらの危険因子の治療に多くの医療費が使われており、とくに患者数の多い高血圧には多額の医療費が費やされています。
高血圧、高コレステロール血症、糖尿病のほとんどは不適切な生活習慣が原因で起こります。肥満も大きな原因ですが、塩分のとりすぎ、多量飲酒、野菜不足なども原因になります。これらは遺伝の影響より大きいものです。日本人は男性や中年以降の女性で肥満が増加し、過去30年間で肥満割合は2倍になりました。しかし、欧米に比べると日本人の肥満はまだまだかわいいものです。20年後、30年後に欧米のようにならないために、いまからしっかり対策を立てる必要があります。
◆予防戦略
生活習慣病予防のための戦略には、ハイリスク戦略とポピュレーション戦略の2つがあります。ハイリスク戦略は、ハイリスクの人を早期に発見し早期に改善するもので、特定健診・特定保健指導もこれにあたります。特定保健指導では、科学的に確立した正しい知識にもとづいた指導を行い、また、行動科学の手法も使う必要があります。
一方、集団全体を良好な方向に動かす戦略がポピュレーション戦略です。たとえば、会社全体で食塩摂取量を減らして、従業員全体の血圧の平均値を下げるというような対策です。会社全体に対して普及啓発や環境改善を行うような対策が含まれます。環境が変わって、みんなで同じことをしますので、個人の努力は少なくてすみます。
◆目的は健康と幸せ
保健事業の最大の目的は従業員の健康を守り、幸せな生活を送ってもらうことであり、決して「医療費を減らすこと」が目的ではありません。重篤な病気にならないために必要な医療費は使わなければなりません。
保健事業の評価では、まずは危険因子の状況を評価することが大切で、医療費への効果はなかなか出にくいものです。
大事なのは、生活習慣病のかなりの部分は予防できるということです。欧米のような肥満大国にならないように、あきらめずに努力を続けていただきたいと思います。 |
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