広報誌「かけはし」

■2011年7月 No.478
 
 
限られた予算で実施する効果的ながん対策

 6月13日、薬業年金会館で健康教室を開催。大阪府立成人病センター がん予防情報センター疫学予防課 課長 中山富雄氏が「限られた予算で実施する効果的ながん対策」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)

 

 

中山 富雄 氏

 日本の死亡原因の1位はがんといわれて久しい。すでに減少をはじめた米国・英国と異なり、日本はがん死亡数の増加が続いているが、それは日本のがん医療が粗末なのではなく、高齢化の影響が著しいからである。年齢構成の偏りを補正した年齢調整死亡率で比較すると、日本も1980年代から一貫して減少を続けている。かつて労働者は20歳代をピークに60歳代が少ないというピラミッド型の年齢構成となっていた。しかし、現在では若年勤務者は少なく50歳代以上の労働者が増え、がん対策が職場でも必要な時代になっている。
 がん対策基本法のもとに作成された国のがん対策推進基本計画は、10年間で75歳未満のがん死亡率20%減(10%は自然減、残り10%をがん対策で減少)を目標に定めた。その柱となるがん対策は、一次予防としてのタバコ対策、二次予防としてのがん検診、そしてがん医療の均てん化である。

   (1) 一次予防としてのタバコ対策
 タバコは、ニコチン・タール・一酸化炭素のほか、約600種類の添加物が含まれており、覚醒剤と同等の強い依存性を示す。本人喫煙によるがん罹患率・死亡率の増加に加えて、COPDや胃潰瘍等の良性疾患の罹患率も急増する。ニコチンやタールが少ないと表示されている“軽いタバコ”の販売が好調であるが、実際に体内に入るニコチン、タール、発がん物質が低いという根拠は定かではなく、かえって肺がん死亡率が増加したという成績まで得られている。職場においては建物内・敷地内禁煙が実施できない場合、分煙が試みられているが、喫煙室での換気能力は限られており、室外への粒子の漏れを防ぐことはできていない。設備は高額であり、禁煙室の設置には医学的・経済的にみて意味がない。
   (2) 二次予防としてのがん検診
 がんの成長速度は、臓器によって異なるため、すべてのがんに対して早期発見が役にたつとは限らない。胃・大腸・子宮頸部・乳腺・肺(非喫煙者)等は定期的検査による早期発見が役に立ちやすいが、それ以外のがん種では困難あるいは不利益を与えるだけに終わることがある。喫煙者に多くみられる予後の悪いがんが検診でみつかりにくいのは、進行速度が速くて、定期検査の間隔に合わないためであり、検診の受診が必ずしも身を守るすべになり得ない場合があることを示している。しかし、安全対策に完璧というものはなく、だからといってなにもしないのは無責任といわざるを得ない。シートベルトの義務化等の交通事故対策により交通事故死亡数は激減している。また米英でのマンモグラフィ検診の国をあげた実施により乳がん死亡率も減少を続けている。これらを参考に適切ながん検診の実施が望まれる。
   (3) 効率かつ効果的ながん対策
 予算の限度を考慮に入れると、なにもかも実施ということは無理といわざるを得ない。科学的効果が実証され、かつ安価なものを適切な年齢の人に行うことになる。まずはタバコ対策を厳重に行うことであり、これは循環器による突然死を防ぐことにもつながる。がん検診としては、さまざまなメニューが提供されているが、腫瘍マーカーやPET検診等は科学的根拠に欠けており、その受診は推奨できない。市町村で実施されている検診手法がやはり基本であり、それを参考にすべきである。

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