広報誌「かけはし」
 
■2011年4月 No.475


23年度事業計画と予算決まる


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 大阪連合会は平成22年度第2回総会を3月23日、北区のホテルモントレ大阪で開催した。
 出席組合162組合、委任状提出32組合、合計194組合が参加。東北地方太平洋沖地震(3月11日発生、東日本大震災)からまもなくの開催となり、冒頭、犠牲となられた方がたに全員で黙とうを捧げた。
 総会は規約の定めにより安藤力会長が議長となり、議事録署名者に住友金属健康保険組合、大阪自転車健康保険組合を指名したのち、議案の審議に入った。
 なお、総会に先立って、安藤会長があいさつ。続いて、来賓を代表して近畿厚生局 中内明保険課長からあいさつがあった。
 中内課長は、このなかで23年度の健保組合予算編成について触れ「保険料率引き上げの動きは加速しており、引き上げ幅も大きくなっている」と厳しい組合財政の状況を述べた。全議案の審議が終了したあと、国際医療福祉大学大学院教授和田勝氏による「医療・介護問題の政策動向」をテーマにした講演が行われた。(以下は安藤会長のあいさつ[要旨])

 安藤会長あいさつ (要旨)
安藤会長
 最初に、このたびの大震災で亡くなられた方がたに対しまして、黙とうを捧げていただきましたが、3月11日、東日本で過去に例をみない、たいへんな震災がありました。多くの犠牲者があり、広範囲にわたって被害が発生しました。心からお見舞いを申し上げます。また、なかにはご親族、ご親戚の方がたが被災された方もおられるかと思います。あらためて心からお見舞いを申し上げる次第です。
 東日本が、あるいは日本全体がこれからどうなるかという状況のなかで、医療保険制度だけを論じていて十分かという意見も一部にあるかも知れません。お年寄りの方がた、小さな子供さん、病気の方がたに対する被災地での懸命の医療活動を報道で見るにつけて、日本の医療制度や医療保険制度のさらなる充実とその必要性を再認識したところです。そのような観点から医療保険制度に関して述べさせていただきたいと思います。
 われわれを取り巻く情勢については、毎日変化をみせつつありますが、厳しさを増しています。高齢者医療制度改革など大きな課題をはじめ、日常的なことまで複雑多岐にわたり問題が山積しています。まず、平成22年度の健保組合予算では、赤字額が6621億円と増加し、赤字組合の比率は9割に及んでいます。これは、大阪の健保組合でも全国集計でも同じ傾向がみられます。したがって、健保組合の財政は極めて深刻な状況に陥っています。
 また、昨年末にまとめられた高齢者医療制度の見直し案についても、安定的な財源確保がないままに公費投入の道筋もつかないなかで、健保組合に対してはさらなる負担を強いるという内容でした。われわれは、到底これを受け入れることはできません。その後、与党内での議論はいまのところ止まったままのようです。一方、全国知事会は国保の広域化に難色を示し、国と地方の協議は議論が始まったばかりという状況です。
 次に、社会保障と税の一体改革について、菅総理は、6月までに全体像を示すとともに必要な財源確保のための消費税を含む税制抜本改革の基本方針を示す、と明言しています。2月から社会保障改革に関する集中検討会議において、経済団体、労働団体、マスコミ、医療・介護の有識者からのヒアリングが行われていますが、3月12日に予定されていた関係閣僚のヒアリングなどは大震災以降、中止されています。いずれにせよ、社会保障と税の一体改革の議論がこれを機会に深まり、前期高齢者医療制度へ公費投入がなされることを大いに期待したいところです。
 今年は、国民皆保険制度が昭和36年に誕生して50年という節目の年にあたります。すべての国民を公的医療保険の対象とし、国民生活の安定と福祉の向上を図る皆保険の仕組みは、日本の社会保障制度の根幹をなし、国民の英知を集めて支えられてきた歴史があります。この制度の立派さは、今回の大震災における医療で証明されたのではないかと思います。医療の内容が十分か不十分かはともかく、被災された方が受診できるかどうかという心配をすることなく、医療を受けられるという安心感は、何にも代え難いものだと思います。その意味で、皆保険制度は何が何でも守りぬかなければならない立派な制度だと思いました。
 残念ながらこの体制がいま、とくに財政面から危機的状況にあります。医療保険制度の中核を担う健保組合は、国民皆保険制度を継続させていくうえで欠くことのできない重要な存在です。このことをわれわれ自身、再度自覚をして発展させていかねばなりません。そのための努力は惜しまず重ねていきたいと思っています。


 ●総会の経過
 議案第1号
 平成23年度事業計画(案)
 議案第2号
 平成23年度収入支出予算(案)
 議案第3号

 平成23年度支出予算の款内各項間の流用を理事会に委任すること

  以上の3議案を一括上程し、いずれも原案どおり承認された。
 議案第4号

 平成22年度被用者保険運営円滑化補助金事業会計収入支出予算および同説明(案)

  以上、原案どおり承認された。


 ●健康保険組合をめぐる情勢
 

 昨年夏の参院選での結果により、衆参のねじれ国会となり、今日の政治は混迷している。一方で経済・雇用状況の不透明さに加えて少子高齢社会の進行などがあり、社会保障政策に対する国の大きな舵取りが求められている。
 さて、健保組合の財政は、極めて深刻な状態に陥っている。21年度の決算見込みによると、健保組合全体の経常収支は過去最大の5235億円の赤字を計上し、赤字組合は8割に達した。また、22年度予算では赤字額は6621億円とさらに増え、赤字組合は9割に及んでおり、大阪の健保組合も同じ傾向にある。赤字の要因としては、収入面での標準報酬月額等の低下による保険料収入の減少と、支出面での保険料収入の5割近くを占める高齢者医療制度に関わる納付金、支援金の過重な負担の影響が大きく、多くの健保組合で法定給付費と拠出金の義務的経費だけで保険料収入を上回る事態が生じている。さらに、昨年7月から後期高齢者支援金の負担方法に3分の1総報酬割が導入されたことで負担増が上積みされた。
 一方、昨年12月に発表された高齢者医療制度改革会議の最終とりまとめでは、財源問題に触れず、公費の拡充がほとんどないなかで負担構造だけを変えようとしている点や、現役世代の支援が限界に達している現状を認識することなく、さらなる負担増を求める内容となっていることから、健保組合・健保連としてはこのままでの法案化には反対である。
 このような状況のなか、政府は「社会保障改革の推進について」の基本方針を閣議決定、社会保障と税制一体改革に関して6月に方向性を示すということを明確にした。ここには社会保障・税に関わる番号制度の検討も含まれることから、改革に対する審議を十分に注視していくことが必要である。
 国として、いま急務なのは社会保障全体にわたるグランドデザインの構築であり、それを裏付ける安定財源の確保である。医療保険の分野においても、重要課題は山積しており、良質で効率的な医療提供体制の確立、増嵩する医療費の適正化、来年4月に予定される診療報酬・介護報酬同時改定への対応、遅延している医療保険分野のIT化、保健事業の効率的・効果的な推進など、これらの課題についても適時的確な対応が必要である。
 大阪連合会では、各健保組合、各地区会をはじめ理事会、各委員会等において、常に問題点を共有しながら、真摯な議論を重ね、自主・自立の運営が図れる組合方式のもと、保険者機能を効果的に発揮していくことができ、将来とも安定した事業運営ができる医療保険制度の実現に向け、さらなる努力を続けていくこととしたい。
 以上の趣旨を踏まえて、本年度は次の事業計画に基づき、事業活動を実施していくこととする。



事 業 計 画
 
基本方針〕
(1)重点事業活動
   健保連本部との連携を一層密にして、次の事項について取り組む。
 

@理事会・委員会・地区会活動を積極的に推進する。
A健保連の主張を国政の場に反映させるため、政党・国会議員への要請活動を積極的に推進する。
B「かけはし」「ホームページ」などの広報活動を通じて、健保連の考え方の周知を図り、理解度を高める。
C「データ分析事業」を展開し、保険者機能強化への支援を行う。
D健保組合全国大会への積極的な参加を推進する。
E健保組合の円滑な運営のため、行政機関と密接な連携を保つ。
F関経連、連合大阪、協会けんぽ大阪支部との連携を図る。
G医師会等医療関係団体とは意見交換を通じて相互理解を深める。
H大阪府保険者協議会では、健保組合の意向を踏まえて、医療費の適正化や有効な保健事業に取り組む。
I国保運営協議会へは、被用者保険サイドの意向を反映させるよう積極的に参加する。
J「けんぽれん病院情報『ぽすぴたる!』」への登録促進について、引き続き積極的に取り組む。
K健保連地域懇談会では、大阪連合会の意見を反映させるとともに、近畿地区各連合会とは密接な連携を図る。
Lその他、時宜に応じた諸対策を実施する。

(2)組織活動
 

 組織活動の強化を図り、次の事項を実施する。

 

@理事会および総会を開催する。
A地区会長会議、各種委員会等を開催して対策を協議する。
B地区会を中心とした諸活動の充実を図る。

(3)組合運営に対する支援活動
   会員組合の円滑な業務推進に資するため、次の活動を実施する。

@会員組合に提供する情報の充実を図る。
A組合予算編成および組合事務に関し、行政機関および健保連本部と連携を密にして支援する。
B組合予算編成事務説明会を開催する。
C永年勤続者表彰伝達式を挙行する。
D会員組合の保健事業、医療費適正化対策の推進を支援する。
E会員組合に有効な健保事務、法律、レセプト、特定健診・特定保健指導等の相談を実施する。

事業活動〕  
1.広報活動の推進
 広報活動の充実を図るため、次の事業を実施する。
(1)機関誌「かけはし」の発行

@誌面の充実を図り、月1回発行する。
A次の項目を重点的に掲載する。
・医療保険制度等改革関連(高齢者医療制度改革への対応、財政調整・一元化阻止等)。
・大阪連合会の事業活動。
・会員組合の財政状況と事業運営。
・政党・国会議員への要請活動。

(2)広報活動の強化

@会員組合の事業活動の推進に役立つ大阪連合会ホームページを充実強化する。
A会員組合が行う広報活動を支援するため広報研究会を開催する。
B会員組合の広報活動に役立つ広報資料を作成する。

(3)関係団体等に対する対外広報の強化
   次の関係団体等への機関誌配布を通じ、健保連の主張と事業活動への理解の浸透を図る。

・国会議員(大阪府選出および社会保障関係)。
・経営者団体・労働団体および医療関係団体。
・その他、必要な関係者。


2.会員組合役職員の資質向上と組合業務の改善・合理化の推進
 会員組合の円滑な事業運営を支援するため、次の事業を実施する。
(1)会員組合役職員の資質向上

@事務長研修会を開催する。
A組合業務別実務講習会(適用・給付・庶務会計・徴収)を開催する。
B初任者実務講習会を開催する。
C個人情報保護研修会を開催する。
D健保事務相談を実施する。

(2)組合業務の改善・合理化の推進
    パソコン研修会を開催する。
(3)保険者機能の強化
    データ分析研修会を開催する。

3.医療費適正化対策の推進
 医療費の適正化対策を推進するため、次の事業を実施する。
(1)行政機関・医療関係諸団体との連携強化

@近畿厚生局・医療関係団体との連携を図る。
A大阪府保険者協議会医療費調査部会との連携を図る。
B国保運営協議会委員の活動強化を図る。

(2)審査支払機関との連絡・調整の緊密化

@事務連絡協議会を開催する。
A審査委員との意見交換会を開催する。

(3)医療費適正化に関する情報の収集と活用

@関係各方面からの情報収集および情報提供の促進を図る。
Aレセプトおよび特定健診・特定保健指導データによる、医療費統計・分析の活用を図る。
B再審査査定事例を収集し、その活用を図る。
C後発医薬品の使用促進を図る。

(4)レセプト点検等に関する研修会の実施

@レセプト確認事務に関する研修会を開催する。
A柔道整復・鍼灸・マッサージ療養費に関する研修会を開催する。
B求償事務に関する研修会を開催する。

(5)医療対策室の活動強化

レセプト・保険給付相談を実施する。


4.保健共同事業の推進
 会員組合における保健事業の円滑な実施が図れるよう支援する。
(1)健康教育の実施

メタボリックシンドローム対策に加えて、がん予防・メンタルヘルス等をテーマに研修会を開催する。

(2)保健師活動の実施

@保健師による特定健診・特定保健指導の円滑な実施を支援する等、相談事業を実施する。
A保健師の資質向上を図るため、研修会等への参加を支援する。
B保健師連絡協議会活動を支援する。

(3)大阪府保険者協議会との連携

保健活動部会との連携を図る。

(4)感染症対策
    エイズ、インフルエンザ等感染症対策の普及啓発に努める。
(5)共同利用施設の契約
    ・保養施設の共同利用の契約
・プール利用券の斡旋
(6)健康づくり活動の推進
    @生活習慣や生活環境が健康に及ぼす影響などの啓発活動に努める。
A健康ウオーキング等、各種健康づくり活動を後援する。

5.総合組合の運営助成
 総合組合の運営に資するため、次の調査・研究事業を実施する。
   

@総合組合の実態に関する調査資料を作成するとともに、財政状況を分析し検討する。
A特定健診・特定保健指導の実施上の課題を検討する。
BIT化による組合業務推進について検討する。
C協会けんぽとの比較等について検討する。


平成23年度 収入支出予算概要

(単位 千円)


 和田教授講演 (要旨)
和田教授
医療・介護問題の政策動向
政府の新成長戦略
 この政策は、2010年6月に閣議決定された。おもな内容は、高い経済成長と雇用創出が見込める医療・介護・健康関連産業を日本の成長けん引産業として明確に位置づけ、2020年までに新規市場50兆円、新規雇用284万人を創出することとしている。しかし、それを賄うには相当の公的財源が必要であり、いま黄信号が点いている。

2011年度政府予算案

 社会保障関係費は、約28兆円となっており、一般歳出予算の5割以上を占めている。つまり、国の予算編成の成否は、社会保障関係予算をどう組むかにかかっている。社会保障関係費のうち最も大きいのは年金で、基礎年金の国庫負担率が引き上げられた結果、そうなった。以下、医療、福祉等、介護の順となっている。しかし、あと5年も経てば医療が年金より上になると思う。

介護保険制度改正
 介護保険法改正法案は、今年2月に国会提出されている。その骨子は、@介護療養病床の廃止期限(2012年3月)の延長A保険料の上昇を緩和するため財政安定化基金に取り崩し規定の設置B痰の吸引行為など介護福祉士の業務範囲の拡大――などとなっている。非予算関連法案であり、仮に今回成立しなくても致命的なことにはならないであろう。

高齢者医療制度改革
 問題は高齢者医療制度改革である。2008年4月の施行後、とくに後期高齢者医療制度について批判が集中し、負担増の凍結などが行われた。2009年11月、いわゆる「長妻6原則」にもとづく法案作成の指示があり、昨年暮れに高齢者医療制度改革会議の最終とりまとめが報告された。そこでは、健保連はじめ保険者側から強い意見があった負担問題など、議論がかみ合わなかったところはすべて両論併記とされた。
 このような経緯から、今後対立点となりそうな部分を除いた法案が考えられているが、それで何が変わるのか。たとえ法案を提出しても、ねじれ国会のなかでは通りそうもない。このような状況から、現段階で法案の今期国会への提出は見送りとされている。

社会保障と税の一体改革
 3年間で一定の経済成長を実現しつつ歳出の合理化を図り、2011年度を目途に消費税率の引き上げを含む税制改革を行なうことが、所得税改正法附則で規定されている。このための具体的な作業が、政府あるいは民主党内部で検討されている。
 政府は、4月に社会保障と税の一体改革に関する一定の考え方を整理し、6月頃に具体的な方向性を決める。それを前提にして、夏に2012年度概算要求に向けての基本方針を決め、そのなかに税制改正、消費税の税率引き上げの内容を盛り込む。――これが民主党の基本的なシナリオだったのであろう。これらに衝撃をあたえる今回の大震災であったように思われる。

共通番号制度
 一方、こうした改革を合理的に進めるためには、社会保障と税に関する共通の番号制度が必要である。政府・与党社会保障改革検討本部の基本方針によると、付番、情報連携、本人確認の3点の仕組みで構成される。ともあれ、個人情報の保護が担保され、かつ個々人の利益が最大限保障されることが求められる。

その他
 医療の分野においては、例えば他にも2012年度診療報酬・薬価改定、レセプトオンライン化、医療等の人材確保、医薬分業、混合診療、メディカルツーリズムの問題など、山積している課題は多い。