社会保障制度のビジョンの構築と新たな高齢者医療制度 |
福島豊 前衆院議員講演 |
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高齢者医療制度をめぐるこれまでの過程を振り返ってみると、まず昭和48年の「福祉元年施策」がある。このとき年金給付額の引き上げと同時に、老人医療費の無料化が実施された。当時は、高度経済成長を背景に負担増がないまま給付の充実が図られ、その結果、老人医療費が爆発的に増加した。当時からだれがどこまで負担するかの議論をしていない。逆にいうと、給付と負担の関係が非常に見えにくい社会保障制度をつくってきたものだと思う。したがって、いま高齢化が深刻な状況になって四苦八苦しているのも、政治の責任ではないかという気がしている。 |
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自公政権下での取り組み |
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平成18年、小泉政権下で歳出削減と経済成長を柱とする財政再建計画、いわゆる骨太2006により社会保障関係費の自然増のうち年間2200億円の削減が行われた。その一環として、後に政府は健保組合・健保連に無理筋のお願いをするような(肩代わり)法案を提出した。しかし、医療崩壊や介護労働力不足など社会保障のほころび拡大が露呈し、結果として歳出削減一辺倒から社会保障の機能強化と財政再建の両立を図る路線への転換を迫られた。
その流れが顕在化したこともあって、平成20年に社会保障国民会議により、社会保障の機能強化についての具体的な提言が行われた。意外だったのは同年9月にリーマンショックが起こり、すぐにはこの取り組みに入れず、ワンクッション置くため年末に中期プログラムを策定した。これは、国の財政が大赤字のなかで財政出動するのであれば、一方で財政再建の考え方を明文化しておく必要があったからである。翌年、平成20年度を含む3年以内の景気回復に向けた集中的な取り組みにより経済状況を好転させることを前提として、段階的に消費税を含む税制の抜本改革を行うため、23年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする、との税制改正法附則第104条を策定した。これがいまの菅民主党政権をも縛っている。これに結論を出すか変えるかどちらかにしないと法律に合わなくなる。
社会保障国民会議の後、安心社会実現会議ができる。ここでは当時、雇用問題、格差問題、とくに年越し派遣村などの問題があり、従来の年金、医療、介護といった社会保障だけではカバーできていないのではないかということも含めて議論した。 |
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“小泉改革”の光と影 |
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小泉政権下では、平成16年に年金制度、17年に介護保険制度、18年に医療制度改革を行った。いずれもさまざまな批判をいただいたが、高齢化にともなって増大する社会保障給付費をある程度の範囲内におさめ、持続可能性を高めるための改革を実現した。反面、次のような課題に直面した。@少子化対策への取り組みの遅れ、A高齢化の一層の進行、B医療・介護サービス提供体制の劣化、Cセイフティネット機能の低下、D制度への信頼の低下―。
これらに対して、前述の社会保障国民会議の報告では、社会保障の機能強化に重点を置く改革を必要とした。そして、制度設計に際しては、効率性・透明性を高めること、給付と負担の透明化を通じた制度に対する信頼、国民の合意・納得の形成が必要であるとした。また、特筆すべき点は医療、介護に関する将来試算を実施した。さらに、制度横断的な点として、ITの活用、社会保障番号の導入も提唱している。それにもとづき20年の末に、政府は財政運営の中期プログラムを策定した。
そこでは安心強化の3原則として、@中福祉・中負担、A安心強化と財源確保の同時進行、B安心と責任のバランスの取れた安定財源の確保―をあげた。そして、税制抜本改革の3原則として、@多年度にわたる増減税を法律において一体的に決定、A予期せざる経済変動にも柔軟に対応、B消費税収は、確立・制度化した社会保障の費用に充てる―をあげた。このように書いてはいるが、当時は国民の皆さんが理解されるところまで慣れていなかったのではないかと私は思っている。
政権交代後、鳩山前首相から菅首相に代わり、菅首相は「強い経済、強い財政、強い社会保障」を提唱。平成22年6月に社会保障の再構築、プライマリーバランスの2020年度までの黒字化、中期財政フレームの改定(平成23年半ば)を主眼とした財政運営戦略を閣議決定した。さらにこの流れで12月には社会保障改革の推進について閣議決定したが、前政権のときと基本的な考え方はなんら変わっていない。 |
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高齢者医療制度を見直す |
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高齢者医療制度をどう見直すかについては、混乱を惹起することとコストのムダを考えると、中途半端な見直しをすべきではない。見直すのであれば、制度全体の最終的な姿を明らかにしたうえでの改革が必要である。都道府県の納得も必要である。また、超党派の熟議の改革は必要だが、みんなできちんと議論をして法案を出しても、いまは国会がねじれているため通らない。通らない法案を出して時間をかけるより、もう一度議論をして整理するほうがよほど建設的である。
また、社会保障に関して安定した財源確保の道筋を示したうえで制度改革を実現すべきである。そして、これまで拠出金、支援金と名前は変わったが、高齢者の医療費は医療保険のなかだけで担えないのは明らかである。どこまで税金で賄うのか、世代間の支え合いをどこまでするのか、世帯単位か個人単位かという基本的な事項を整理して合意形成を図るべきである。ともかくわかりやすい制度、見えやすい制度が必要である。
そして、菅内閣で実施すべきことは、@税と社会保障の一体的な改革についての道筋を示すこと、A社会保障制度の基盤となる社会保障番号制度、ICカードの導入などIT化を実現、B超党派の協議機関、国地方の横ならびの協議機関の設置―である。医療・介護・年金・子育て支援など、財源に裏打ちされた議論を行い、恒久的な社会保障制度を構築することが望まれる。 |