広報誌「かけはし」
 
■2011年2月 No.473

 大阪連合会は2月3日、大阪市中央区のホテルモントレラ・スール大阪で時局講演会を開いた。健保連本部、健康保険政治連盟との共催によるもので、福島豊前衆院議員が「社会保障制度のビジョンの構築と新たな高齢者医療制度」をテーマに講演を行った。同日の講演会では、福島氏の講演に先立ち、大阪連合会の安藤会長、ならびに健保連の平井会長があいさつ、健保連の白川専務理事が情勢報告を行った。健保組合の財政的苦境が一段と際立つ一方、社会保障と税の問題が大きくクローズアップされている状況のなか、この日の時局講演会には165人が出席し、熱気あふれる会合となった。

 時局講演会では冒頭、大阪連合会の安藤会長が開会のあいさつに立った。安藤会長は「社会保障と税の一体改革の議論が、6月を目途に政治の場で始まった。今年は日本の医療保険制度、健保連の将来を大きく左右する正念場の年。大阪連合会は健保連本部、各都道府県連合会と協力して健保連の主張実現のための活動を行っていきたい」と抱負を述べ、会員組合の一致団結を呼びかけた。
 続いて、健保連の平井会長のあいさつと白川専務理事の情勢報告の後、福島豊前衆院議員による「社会保障制度のビジョンの構築と新たな高齢者医療制度」と題した講演が行われた。(以下に、健保連の平井会長のあいさつと白川専務理事の情勢報告の要旨、および福島氏の講演要旨)

 主張反映の重要な時期に
平井健保連会長あいさつ
   高齢者医療制度については、厚労省の高齢者医療制度改革会議で昨年1年間議論され、12月に「最終とりまとめ」が提出された。しかし残念なことに、それはその場しのぎの、改革とはおよそいえぬような代物と評価せざるをえない。なによりも医療保険制度への公費の投入と、その前提となる財源の確保が議論されないのであるから、まったく根本改革にはなりえない。このような観点から我々は今回の案に反対を表明している。現段階で高齢者医療制度改革については法案化されておらず、今国会に上程されるかどうかは微妙な状況にあるが、今後の動きを注視していく必要がある。
 将来にわたる大きな問題は、社会保障と消費税をはじめとする税制の一体改革の動きである。昨年12月初旬に政府・与党の社会保障制度改革検討本部が基本方針をまとめ、同月14日に閣議決定された。今年に入り、菅首相の年頭所信表明や通常国会冒頭での施政方針演説で、同改革を政府の最重要課題とし政治生命を賭して行うという内容の方針が出された。
 今後、4月に厚労省で社会保障制度改革の方向性、6月に社会保障と税の関係での方向性と、2段階での検討が進められるところである。動向は非常に不透明だが、私はこれまで動かなかった社会保障と税の一体改革という大きな山がいよいよ動くと評価している。我々はこの期間の動きを注視し、我々の主張をしっかりと要請していくことが必要である。
 また、高齢者医療制度改革と、社会保障と税の一体改革の関係を一度逆転させてはどうかと考える。まず、社会保障と税の一体改革の方向性を第一に考え、それが定まった段階で高齢者医療制度改革をもう一度俎上にのせていく。これまでのやり方は反対であったが、元に戻し正当なかたちで議論を進めてもらいたい。
  保険者崩壊抑止に公費投入の拡充を
   我々が主張していくべきポイントは2つある。1つは各医療保険者がたいへんな赤字に陥り保険者崩壊の状況になっている。これを防ぐために、高齢者医療制度において65歳以上からの公費投入を拡充すること。これがなければ我々の苦境は改善されない。仮に消費税が上がっても必ず公費が投入されるという保証はまったくない。したがって、この部分の議論を詰めていかなければならない。
 2つ目は、医療費の適正化や保険者機能の発揮で頑張ってきた健保組合は、企業のためにも国のためにも生き残らねばならない。これがなくなれば国民皆保険制度が崩壊してしまう。健保組合が生き残るための方策を改革の中身に盛り込んでもらい、改革までの間には、財政難に陥っている健保組合に財政支援を拡充してもらうことが必要である。
 一方、健保組合・健保連の活動方法については、これまでは受け身すぎではなかったか。毎年、“公費投入の肩代わり”“取りやすいところから取る”といった方策がとられ、それに対して我々はいつも反対の立場をとらざるをえなかった。今後は、政府が制度改革にまい進するといっているのだから、我々もそれに対してもっと具体的に関わっていく活動が必要である。国に将来的なビジョンである社会保障のグランドデザインがないために、我々はその都度場当たり的な政策に苦しんでいる。したがって、グランドデザインの具体的な内容について、もっと突っ込んだ議論をする必要がある。
 その場合に、健保組合・健保連にとって基本的な考えを固めることが重要である。我々は平成17年度に医療制度改革に向けて提言(新たな高齢者医療制度の創設を含む医療制度改革に向けての提言)を行った。また、平成20年度には医療保険制度の一元化、財政調整に対して健保連の基本的な考え方をまとめた。それらを再確認し、それにもとづきグランドデザイン等の制度設計に反映させたい。
 その過程で重要なことは、@基本的な考え方を整理し直す、A平成17年度から5年も経っており、その後追加すべきことはないか、Bまとまったらそれを健保組合全体で共有する、C理念にもとづき、ち密な戦略・戦術を立てて関係各方面へ働きかける、D説得力を高めるためにデータを蓄積することが必要―の5点である。とくに、健保連では現在データ分析事業を進めており、ぜひ協力をお願いしたい。
  労使への働きかけをさらに強化
   健保組合内部の問題としてたいせつなことは、事業主と加入者の皆さんの理解をえて、健保組合一体で活動していくことである。健保連本部は日本経団連、連合等の関係団体との連携を図っており、各都道府県連合会においても経営者協会や連合等と取り組みを行っている。各健保組合においても事業主や加入者の皆さんと財政問題や健保組合の存在意義等について、話し合いを進めていただきたい。
 社員の健康を守る組織は、企業にとって欠かすことができない。換言すれば、各健保組合がしっかりすれば国民全体の医療保険制度を守れるという崇高な使命を持っている。このことを事業主、被保険者、家族の方がたにわかってもらわないと我々の力が発揮できない。被保険者、家族3000万人の力があるわけである。健保組合財政は苦しいが、いまが踏ん張りどき、制度改革の正念場である。

 皆保険存続に公費拡大は必須
白川専務理事情勢報告
 

 高齢者医療制度改革会議の最終とりまとめが12月20日に報告された。そこでは、公費拡大という我々の意見が一部取り入れられ両論併記となった。しかし、公費拡大はないという厚労省の考えは明らかである。その後、法案化は民主党内の高齢者医療制度改革ワーキングチームで待ったがかかった。それは、我々が主張する部分においてではなく、70〜74歳の層に対する自己負担割合を本則の2割に段階的に戻すことに対してであり、したがって同党の政策調査会にあげられなかったということである。
 また、全国知事会が国保の広域化について、公費の手立てがない限り受けられない、国が協議の場をつくるといっても参加しない、と反対している。民主党の内部、自民党、公明党など野党、全国知事会ともに反対している。さらに、厚労省は今国会中にいくつかの法案をかかえており、優先順位として年金、子ども手当、雇用、介護関係法案などがあって、高齢者医療制度改革法案の国会上程までに至っていない状況である。

  「改革」は待ったなし
   我々の主張は2つある。1つは順番が違うということである。グランドデザインや将来の社会保障に対する国の覚悟を決めて必要な財源を示し、そのうえで高齢者医療制度や介護保険制度を論じることが順番として正しい、という主張である。もう1つは、高齢者医療制度を将来、持続可能なものにしていくためには、公費拡大以外に方法がないということである。
 国民医療費は現在約35兆円、このうち65歳以上の高齢者の医療費は約19兆円で全体の50数%を占めている。それが20〜30年後には6割、7割を占めるようになる。健保組合は保険料収入の約45%を高齢者医療制度に拠出しているが、それですまなくなり国民皆保険制度はもたなくなる。高齢者医療制度改革法案は先送りされるかもしれないが油断できない状況にあり、我々は考え方を再整理してさらに主張を強めていかなければならない。
 介護保険改革法案は、大まかには給付の改定が中心であるが、我々が気にしていたことが何点かあった。現在40〜64歳となっている2号被保険者の年齢を、引き下げるという案、また、被用者保険における介護保険料を総報酬割にするという案があった。我々は総報酬割に対して当然反対してきたが、そうした議論をよんだ負担関係の内容については、民主党の政策調査会でストップがかかり、今回の法案には含まれない見込みである。ただし、3年に1回の介護報酬改定が来年4月にあるため今後も議論されることになり、こちらも油断できない状況にある。
  超党派での検討を期待
   次の大きなテーマは、社会保障と税の一体改革である。厚労省は昨年12月に「社会保障検討本部」を立ち上げた。最大の問題は年金であり、税方式か社会保険方式か政府・与党の方針が決まっていない。それによって財源が数兆円規模で違ってくるため、方針が決まらなければ同省としても検討のしようがないのではないか。一方、民主党には「税と社会保障の抜本改革調査会」があり、12月に中間報告を出した。それによると、社会保障で不足している金額は9.5兆円。消費税率1%で2兆円〜2兆数千億円といわれていることから約4〜5%の消費税換算というイメージではないか。当初、会長は藤井裕久氏だったが官房副長官となったことから交代し、仙谷由人民主党代表代行が会長に就任した。同時に、会の名称が「社会保障と税の抜本改革調査会」と変更になった。
 さらに、政府・与党には菅首相が本部長の「社会保障改革検討本部」があり、その下に有識者会議が置かれている。菅首相は年頭会見や国会の施政方針演説で、社会保障と税の一体改革を政治生命を賭してやるとの発言を行い、同本部のなかに「社会保障に関する集中検討会議」を設置した。一昨日メンバーが確定したが、労使代表や有識者など10人の委員構成でうち6人が旧自公政権時代に同様の会議体に参加したメンバーとなっている。
 社会保障改革に対する考えは、党派を超えて多くの国会議員が共有できる部分が非常に多い。国民の大多数も、多少負担が増えることを覚悟し、いまや改革の時期との認識であろう。健保連としても与野党に対して、そのような思いを伝えていかなければならないと感じている。
  制度間財政調整・一元化、ひき続き阻止
   先ほど平井会長から、我々は今後、改革へ向けて具体的な提案をしていく、そのためのち密な戦略・戦術が必要、との趣旨の発言があった。健保連は平成17年に、18年医療制度改革に向けて「提言」をまとめ、20年には財政調整、一元化に対する考え方をまとめた。その内容は、医療保険制度の一元化については反対の立場である。財政調整については高齢者医療制度に対する拠出の点では国民の義務としてやむをえないが、制度間の財政調整には反対の立場である。税と保険の関係では、大まかに所得再配分は税で行うべき、と整理している。この主張は誤っていないが、その後全体の動きのなかでどうなのか、健保連の医療制度等対策委員会で議論を開始したい。
 一方、社会保障と税の共通番号制の検討問題がある。同問題については、1月に政府・与党の検討本部が基本方針をまとめた。それによると、秋の臨時国会に法案を提出し4年後の制度スタートを目標にしている。内容は、住基ネットをもとに国民一人ひとりが共通番号をもつ構想のようである。健保組合としても、被保険者番号、年金と雇用保険番号との関係、診療記録の閲覧等提供されるサービス内容、システム改変などの影響があり相当注目していく必要がある。
 先日、平成22年4〜8月の国民医療費の対前年比伸び率が3.9%と公表された。この伸びで医療費が増え続けると、高齢者医療制度への公費拡大など、どんな手を打っても結局、保険料を引き上げていかなければならず負担に耐えられなくなり、それこそ国民皆保険制度がおかしくなる。医療費をいかに効率的に使うかが非常に重要である。健保連は柔整療養費の問題や支払基金のチェックシステムに対する意見など、健保組合の医療費適正化対策への支援活動にさらに取り組んでいきたい。
 健保組合だけでなく協会けんぽ、国保など他の保険者、医療保険の加入者も含めて、国全体で医療費適正化を推進しなければ、将来とも国民皆保険制度を続けていくことは困難、との危機感をもっている。ぜひ力を合わせて、よりよい皆保険制度をつくり上げるよう努力していきたい。

 社会保障制度のビジョンの構築と新たな高齢者医療制度
福島豊 前衆院議員講演
   高齢者医療制度をめぐるこれまでの過程を振り返ってみると、まず昭和48年の「福祉元年施策」がある。このとき年金給付額の引き上げと同時に、老人医療費の無料化が実施された。当時は、高度経済成長を背景に負担増がないまま給付の充実が図られ、その結果、老人医療費が爆発的に増加した。当時からだれがどこまで負担するかの議論をしていない。逆にいうと、給付と負担の関係が非常に見えにくい社会保障制度をつくってきたものだと思う。したがって、いま高齢化が深刻な状況になって四苦八苦しているのも、政治の責任ではないかという気がしている。
  自公政権下での取り組み
   平成18年、小泉政権下で歳出削減と経済成長を柱とする財政再建計画、いわゆる骨太2006により社会保障関係費の自然増のうち年間2200億円の削減が行われた。その一環として、後に政府は健保組合・健保連に無理筋のお願いをするような(肩代わり)法案を提出した。しかし、医療崩壊や介護労働力不足など社会保障のほころび拡大が露呈し、結果として歳出削減一辺倒から社会保障の機能強化と財政再建の両立を図る路線への転換を迫られた。
 その流れが顕在化したこともあって、平成20年に社会保障国民会議により、社会保障の機能強化についての具体的な提言が行われた。意外だったのは同年9月にリーマンショックが起こり、すぐにはこの取り組みに入れず、ワンクッション置くため年末に中期プログラムを策定した。これは、国の財政が大赤字のなかで財政出動するのであれば、一方で財政再建の考え方を明文化しておく必要があったからである。翌年、平成20年度を含む3年以内の景気回復に向けた集中的な取り組みにより経済状況を好転させることを前提として、段階的に消費税を含む税制の抜本改革を行うため、23年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする、との税制改正法附則第104条を策定した。これがいまの菅民主党政権をも縛っている。これに結論を出すか変えるかどちらかにしないと法律に合わなくなる。
 社会保障国民会議の後、安心社会実現会議ができる。ここでは当時、雇用問題、格差問題、とくに年越し派遣村などの問題があり、従来の年金、医療、介護といった社会保障だけではカバーできていないのではないかということも含めて議論した。
  “小泉改革”の光と影
   小泉政権下では、平成16年に年金制度、17年に介護保険制度、18年に医療制度改革を行った。いずれもさまざまな批判をいただいたが、高齢化にともなって増大する社会保障給付費をある程度の範囲内におさめ、持続可能性を高めるための改革を実現した。反面、次のような課題に直面した。@少子化対策への取り組みの遅れ、A高齢化の一層の進行、B医療・介護サービス提供体制の劣化、Cセイフティネット機能の低下、D制度への信頼の低下―。
 これらに対して、前述の社会保障国民会議の報告では、社会保障の機能強化に重点を置く改革を必要とした。そして、制度設計に際しては、効率性・透明性を高めること、給付と負担の透明化を通じた制度に対する信頼、国民の合意・納得の形成が必要であるとした。また、特筆すべき点は医療、介護に関する将来試算を実施した。さらに、制度横断的な点として、ITの活用、社会保障番号の導入も提唱している。それにもとづき20年の末に、政府は財政運営の中期プログラムを策定した。
 そこでは安心強化の3原則として、@中福祉・中負担、A安心強化と財源確保の同時進行、B安心と責任のバランスの取れた安定財源の確保―をあげた。そして、税制抜本改革の3原則として、@多年度にわたる増減税を法律において一体的に決定、A予期せざる経済変動にも柔軟に対応、B消費税収は、確立・制度化した社会保障の費用に充てる―をあげた。このように書いてはいるが、当時は国民の皆さんが理解されるところまで慣れていなかったのではないかと私は思っている。
 政権交代後、鳩山前首相から菅首相に代わり、菅首相は「強い経済、強い財政、強い社会保障」を提唱。平成22年6月に社会保障の再構築、プライマリーバランスの2020年度までの黒字化、中期財政フレームの改定(平成23年半ば)を主眼とした財政運営戦略を閣議決定した。さらにこの流れで12月には社会保障改革の推進について閣議決定したが、前政権のときと基本的な考え方はなんら変わっていない。
  高齢者医療制度を見直す
   高齢者医療制度をどう見直すかについては、混乱を惹起することとコストのムダを考えると、中途半端な見直しをすべきではない。見直すのであれば、制度全体の最終的な姿を明らかにしたうえでの改革が必要である。都道府県の納得も必要である。また、超党派の熟議の改革は必要だが、みんなできちんと議論をして法案を出しても、いまは国会がねじれているため通らない。通らない法案を出して時間をかけるより、もう一度議論をして整理するほうがよほど建設的である。
 また、社会保障に関して安定した財源確保の道筋を示したうえで制度改革を実現すべきである。そして、これまで拠出金、支援金と名前は変わったが、高齢者の医療費は医療保険のなかだけで担えないのは明らかである。どこまで税金で賄うのか、世代間の支え合いをどこまでするのか、世帯単位か個人単位かという基本的な事項を整理して合意形成を図るべきである。ともかくわかりやすい制度、見えやすい制度が必要である。
 そして、菅内閣で実施すべきことは、@税と社会保障の一体的な改革についての道筋を示すこと、A社会保障制度の基盤となる社会保障番号制度、ICカードの導入などIT化を実現、B超党派の協議機関、国地方の横ならびの協議機関の設置―である。医療・介護・年金・子育て支援など、財源に裏打ちされた議論を行い、恒久的な社会保障制度を構築することが望まれる。