広報誌「かけはし」
 
■2011年1月 No.472
時評

公費拡充へ明確な筋道を

− 社会保障と税の議論を急げ −


 国民全員が公的医療保険に加入する国民皆保険制度は、今年で50周年を迎える。そのなかにあって健保組合は、疾病予防を中心とした保健事業の積極的推進等により、医療費の適正化の成果を上げ、制度の維持・発展の中核的な役割を担ってきた。
 しかしながら、現在健保組合は非常に厳しい財政運営を余儀なくされている。その原因は、不況による保険料収入の減少や、高齢化等による医療費の増大もあるが、最大の要因は高齢者医療制度に対する過大な拠出金の負担にある。
 そして、さらにいま健保財政を圧迫する医療制度の見直しが進められようとしている。それは、昨年12月に厚生労働省が発表した新しい高齢者医療制度の「最終とりまとめ」の内容が、健保組合等にさらなる負担増を強いるものであることだ。
 この見直し案における一番の問題点は、公費拡充の方向性が明確に示されていないことにある。そして、新制度の「費用負担」における被用者保険間の全面総報酬割の導入は、昨年からのいわゆる協会けんぽへの国庫負担の肩代わりと同様の構図となっており、とうてい容認できるものではない。健保組合も相応の負担を担う覚悟はあるが、「取りやすいところから取る」という手法は改めてもらいたい。
 さらに加えて、まったく同じ議論が介護保険制度の見直しでも行われている。それは、被用者保険の第2号被保険者の保険料算定に総報酬割を導入するというものである。これによる健保組合等の負担増を財源に、協会けんぽに投入されている国庫負担を縮減して、新たな財源を捻出しようというのだ。このような理不尽で安易な措置はやめてもらいたい。
 さて、日本は今後ますます現役世代の人口が減少していく。そして、1年後からはこれまで支える側であった700万人の団塊世代が、高齢者の仲間入りをしていく。医療、介護、年金といった国民の「安心」を支える持続可能な社会保障の制度構築は、まさに待ったなしの状況である。
 折しも、昨年10月には「政府・与党社会保障改革検討本部」が設置された。この本部では、社会保障の全体像について、必要とされるサービスの水準・内容、その財源の確保について、一体的に議論するとのことである。同じく検討を開始している民主党の「税と社会保障の抜本改革調査会」等とあわせて社会保障全体を支える安定的な財源の確保について議論を集中して進め、十分な公費を投入する明確な筋道をつけてもらいたい。
 そして、一方われわれ健保組合は大変苦しい財政状況であるからこそ、保健事業等を一層効果的・効率的に運営していかねばならない。一致団結してこの苦境を乗り越えていくことが、健保組合制度を守り、国民皆保険制度を維持していく役割を果たすことになるのである。
  (K・M)