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メタボ予防の新しい考え方

〜 生命科学の視点から
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11月4日、大阪商工会議所で健康セミナーを開催。同志社大学大学院 生命医科学研究科教授 市川寛氏が「メタボ予防の新しい考え方〜生命科学の視点から〜」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨) |
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市川 寛 氏 |
◆はじめに
食生活の北米化に伴い、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病は、しばしば重複して出現し、その前段階として、現在では「メタボリック症候群」という病態が知られるようになっています。このメタボリック症候群の診断基準には、内臓肥満を必須とした耐糖能異常、高血圧、脂質代謝異常の項目があげられていますが、どの項目をみても、私たちが日常診療において最もよく遭遇する病態であり、身近な疾病群であるといっていいでしょう。メタボリック症候群の概念で画期的であるのは、患者の予後を左右する動脈硬化性疾患の予防を第一義としたところにあり、また、今までは異なる病態と考えられていた生活習慣病が、いわゆる予備軍の段階であっても、その重積により心血管イベントの大きなリスクになることを示しているところにあります。
「栄養療法」という観点から現代日本人の食習慣における問題点をあげるとともに、内科的立場から全身疾患としてのメタボリック症候群と、栄養や抗酸化食品との関連について概説します。
◆生活習慣病の予備軍とされるメタボリック症候群
高齢化、少子化が進むなかにあり、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病などの生活習慣病の増加が深刻な健康問題となっていることはよく知られていますが、このメタボリック症候群は、とりわけ食習慣との関連が深く、健康的な食生活の実践により疾病発症を予防するという一次予防の推進が重要と考えられています。近年、メタボリック症候群を克服するために予防医学の立場から、食品の天然成分の有効性に着目し、副作用のない新しい医薬品、あるいは病気を防ぐための抗酸化食品の研究・開発に力を入れていこうという気運があります。
◆飽食という栄養失調
人間が生きていくために必要な栄養素のうち、とくに重要なものは、体を動かすエネルギー源となる「三大栄養素」といわれる炭水化物、蛋白質、脂質です。しかしながら、現代日本人の栄養状態を分析してみると、糖質・脂質・動物性蛋白質はとりすぎ、植物性蛋白質はやや不足気味で、カロリーは消費エネルギーに比較して、全体的にやや過剰摂取しており、さらに、ミネラルでは塩分とリン酸塩の摂取量が過剰で、それ以外のビタミン・ミネラル・食物繊維などの副栄養素が不足しているという現状があります。現代は、各種栄養素がまんべんなくとれていない時代であり、栄養過剰の時代の副栄養素全般の不足を補うには、たとえば、総合ビタミンによるトータルな補給が必要であり、そのうえで、個々のビタミン・ミネラルの弱点に応じて追加補給することが原則となります。
◆活性酸素とメタボリック症候群
現在までに、食品の3次機能をもつ化学物質が野菜や果物のなかに多数存在することが発見され、同時に疾病予防の機能を有することを強調・目的とした機能性食品がすでに市場に出回っています。とくに、メタボリック症候群の予防効果のある食品としては、生活習慣病の成因に「酸化ストレス」が強く関与していることもあり、その多くが、抗酸化作用をもつ物質で占められています。メタボリック症候群予防に対するアプローチは、「活性酸素の産生を抑制すること」「活性酸素の消去を促進すること」さらに、「活性酸素による傷害を修復する能力を高めること」の3つが重要であると考えられています。
◆抗酸化食品によるメタボリック症候群予防
抗酸化食品の摂取が細胞内の酸化ストレスを減少させ、疾病予防効果を示すという仮説のもとに、現在では多くの抗酸化食品が使用されています。生体内ではいくつかの抗酸化物が強く相互作用していると考えられており、そのなかでも、ビタミンC、ビタミンE、グルタチオン、αリポ酸、コエンザイムQ10など、わずか数種類が生体内でネットワーク系抗酸化物として作用しています。一方、これら相互作用を示す抗酸化物以外の抗酸化物や、非抗酸化物にも生体の抗酸化能を高める効果があることが知られています。
◆おわりに
日常診療における抗酸化食品の利用を含めた栄養学的なアプローチは、今後ますます重要になると思われますが、一方では抗酸化食品の利用における科学的根拠の明白なものが数少ないのが問題となっています。今後の多くの課題が山積みされていますが、近い将来、抗酸化食品を含めた「食」によるメタボリック症候群の一次予防は確実なエビデンスをもって、国民に浸透していくものと期待しています。 |
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