広報誌「かけはし」

■2010年11月 No.470
 
 
その一服が肺を蝕んでいく
〜タバコ病としてのCOPD〜

 10月22日、大阪商工会議所で健康教室を開催。国立循環器病研究センター 呼吸器・感染症制御部 呼吸器科/感染症科 医長、感染対策室 室長 佐田 誠 氏が「その一服が肺を蝕んでいく〜タバコ病としてのCOPD〜」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)

   はじめに
 

 

佐田 誠氏

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者は世界的に増加しており、大きな問題になっています。WHOの予測では、2020年には世界の死亡原因疾患の第3位になるとされています。日本では、40歳以上の約8.6%、つまり500万人以上が罹患していると考えられています。糖尿病に匹敵する数の患者がいるにもかかわらず、認知度は低く、そのためか診断率も低いのが現状です。
   COPDとは
 簡単に表現すれば、“肺が徐々に壊れていく”病気ですが、栄養障害や心疾患など、他臓器疾患との合併が多いことも特徴の一つです。主要な原因の一つはタバコであり、実に80〜 90%といわれています。禁煙だけでもかなりの予防効果があります。
 COPDには@労作時の呼吸困難A慢性の咳B喀痰―という三つの大きな症状があります。ただし、この症状は喘息と酷似しており、区別が非常に困難で、両者の鑑別診断が必要になってきます。
 また、全身性疾患としての併存症が多いことも特徴です。栄養障害や、心不全、高血圧などの心血管系疾患、骨粗鬆症、うつなど、いろいろな合併症があることがわかっており、悪影響をおよぼしあっている可能性が考えられます。
   現状
 肺機能は加齢とともに衰えていくので、COPDとして診断されにくく、また、患者サイド、医療サイドともに認知不足が否めず、わずか12%という診断率の低さにつながっています。単に肺の老化と考えている部分が多く、肺機能検査が十分に普及していないことも事実です。
   診断・検査
 まず、問診の段階で注意が必要なことは、以前と比べて現在どうかということです。坂道や階段がつらくなった、着替えるのがつらくなったなどの現象があれば注意しましょう。
 胸部]線でもCOPDを診断することは可能ですが、かなり進行してからでないと所見は認められません。したがって、COPDの早期発見には、あまり向いていないと考えます。CT検査は早期発見には最も適した方法と考えられますが、コストも高く、スクリーニング検査に用いるには厳しい面があります。
 早期診断のためには、肺機能検査が一般の健診に取り入れられることが望まれます。肺機能検査は、息を吐くときのスピードを測定するもので、健康な人は、一気に吐くことができます。しかし、COPDなどにより肺機能が衰えてくると、息を吐くスピードが落ちてくるので、早期の診断が可能になります。
   最後に
 どんな人でも加齢とともに肺機能は衰えます。しかし、喫煙などの理由でCOPDを発症すると、健康な人よりも速い速度で肺機能の低下が進行します。最終的に酸素吸入が必要な段階まで悪化すると、5年生存率が50%以下にまで落ち込んでしまいます。そうなる前に策を講じる必要があるのです。
 現在では、長時間作用型の気管支拡張薬などのよい薬があります。COPDと診断されたら、重症化する前に禁煙など生活習慣の改善とともに的確な治療を受けるようにしましょう。


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