広報誌「かけはし」
 
■2010年9月 No.468
時評

公費拡充の具体化論を急げ

− 改革会議「中間とりまとめ」から −


 先日、躍進著しい中国を理解することをテーマとした講演を聴講する機会があった。上海万博の入場券を奪い合う凄まじい光景からはとても想像できないのであるが、中国人は、われ先にと電車の席を争っても、高齢者が立っていれば必ずといってよいほど席を譲るそうである。お年寄りを敬い大切にする伝統が生きている。
 それに引き換え、世界一の長寿国・日本はどうか。最近、所在確認ができない高齢者が全国で相次ぎ、大きな社会問題となっている。所在不明が明らかになった100歳以上の高齢者は全国で271人(8月26日現在)。音信不通のお年寄りが長年にわたり放置されるという、日本の疎遠な家族関係が浮き彫りになった。コンピュータ管理が行き届く現代でこうした問題が起きるのは、個人情報保護法や縦割り行政の弊害によるところが大きいとされる。だが、年1回「検認」を実施しているわれわれ健保組合の立場からすれば、このようなずさんな管理で社会保障制度が運用されてきたこと自体が信じられない。
 超高齢社会を迎えている日本の社会保障制度の現状と見通しは厳しい。新聞報道によると、平成21年度末の厚生年金の扶養比率では、現役2.47人で高齢者1人を扶養する計算になる。さらに少子高齢化によって15年後には2人の現役世代で高齢者1人を支える社会になるという。少子化のなかで高齢者が増え、年金給付が膨らめば、その支え手である現役世代の負担は限りなく増す。毎年1兆円を超える規模で膨らみ続ける医療費問題についても課題はまったく同じである。
 去る7月23日、高齢者医療制度改革会議の中間とりまとめ案が提出され、8月上旬には新制度に関する地方公聴会が福岡、仙台、大阪で順次開催された。われわれはそのなかで、「高齢者医療制度に対する公費負担の拡充」と「地域保険と被用者保険の維持と発展」を一貫して主張してきた。国民皆保険を維持するためには現役世代にいま以上の過重な負担は課すべきではないと。
 「中間とりまとめ」で公費投入を拡充する考え方は示されたが、その費用負担に関しては秋以降の論議に先送りされた。改革会議は年内の「最終とりまとめ」をめざして議論を継続するが、財源なき制度設計はあり得ない。新制度にとって不可欠な公費財源の考え方を極力早い段階で示すべきである。公費の拡充は結局、現役世代への増税に繋がる問題でもあるのだ。参院選後、消費税論議は消極的になりがちであるが、政府は新しい税制を含めた負担のあり方や超高齢社会の是正に向けた少子化対策など、総合的にかつ最優先課題として取り組むべきである。
 また、制度をいかに変えようとも高齢者の医療費が減ることはない。将来にわたり持続可能な制度とするためには、保険料の不足を無際限に現役世代に課すのではなく、まずは個人が負担する保険料率の限界値を示したうえで、不足分は公費で穴埋めするとの考え方に立つべきである。
  (Y・T)