広報誌「かけはし」
 
■2010年4月 No.463
時評

診療報酬10年ぶりにプラス改定

− 医療費の増加に懸念残る −


 4月から診療報酬が改定された。改定率は、ネットでプラス0.19%。内訳は医科・歯科・調剤がプラス1.55%、薬価・医療材料がマイナス1.36%で、10年ぶりのプラス改定である。
 今回改定では、救急、産科、小児、外科等の医療への評価策と、病院勤務医の負担軽減への支援策に対して、医療費資源が重点配分された。このほか、レセプト電子請求が義務づけられている保険医療機関等に、患者への明細書の無料発行が原則義務化された。必要性が高い医療分野の充実強化や、医療の透明化という視点でみると、一歩前進といえる。
 また、懸案だった病院と診療所の再診料の点数格差問題は、69点での統一化が図られた。診療所は71点から2点マイナス、200床未満の病院は60点から9点プラスとなった。診療報酬改定を審議した中医協では、支払側と診療側の意見がおりあわず、公益委員の裁定で決着した。この問題については、病院と診療所それぞれが果たすべき役割や機能、あるいは患者の視点からの論議などを、もっと尽くす必要があったのではないか。
 一方、医療費負担の面から今回改定をどうみるか。過去の診療報酬改定率は、平成16年度△1.0%、18年度△3.16%、20年度△0.82%。これに対して、医療保険医療費の伸び率(対前年度比)は、平成16年度から20年度までそれぞれ2.0%、3.1%、0.1%、3.1%、1.9%増加となっている。
 この数値関係から大まかに読みとれることは、@マイナスの診療報酬改定だったとしても、高齢化や医療の高度化などいわゆる自然増の影響で、改定による引き下げ分をカウントしても、医療費は年々3%ほど着実に増える。Aマイナス改定は医療費の適正化に寄与している。Bマイナス改定があった年度の医療費の伸び率は多少低くなるが、次年度の伸び率はもとにもどる。
 今回プラス改定だったことにより、自然増分がもろに医療費増大という結果にはね返ることは、以上のことからも確実である。
 平成20年度の医療費は34.1兆円であり、3%の伸びは1兆円を超える医療費増加額となる。現状でも財政危機に瀕している健保組合はたまらない。加えて、高齢者医療制度に対する協会けんぽへの国庫補助の肩代わりによる拠出の増額案が、追い討ちをかけてくる。
 医療費の伸びを国民所得の伸びの範囲内とすることが、長年の国の政策目標であったはずだが、このところトーンダウンしているようである。経済の低迷が続くなか、医療費のみ突出するのはどうであろう。国民生活に直結する社会保障政策、とりわけ医療政策には一貫性がほしい。
  (T・M)