広報誌「かけはし」

■2010年3月 No.462
 
 
健康づくりに関する広報

 平成21年12月15日、薬業年金会館で広報研究会を開催。尼崎市環境市民局市民サービス室 課長 野口緑氏が「健康づくりに関する広報」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
 

 

野口 緑氏

特定健診の目的は
 特定健診・特定保健指導の目的は、より多くの人に自覚症状もない予備群の段階で自分のからだの状態を示す客観的データを提供し、生活習慣病予防のきっかけをつくっていただくことにあります。そのために受診率を上げたいのであり、国が示す基準をクリアするためではありません。
 これまでの老人保健法の住民健診の目的は、異常の早期発見・早期治療にあり、健診結果が悪ければ対象者に医療機関の受診を勧めていました。しかし、今回の特定健診のねらいはそうではなく、BMI、血圧、血糖値、中性脂肪などのわずかな異常値の人たちをみつけて、ご自分のからだの変化に気づいてもらい生活習慣の改善を促すことにあります。
 厚生労働省の研究結果によると、BMI、血圧、血糖値、中性脂肪の基準値をわずかでも超えた危険因子を1つ、2つ保有する人は、異常のない人に比べて心筋梗塞を発症する可能性が5倍高まり、3つ、4つ(マルチプル・リスクファクターの)ある人は、脳卒中や心筋梗塞を発症する可能性が35倍高くなることが明らかにされています。したがって、予防の目標はリスクが重ならないようにすることです。個々の検査データはさほど悪くなくても、いくつも重なっている人たちをみつけだし、保健指導で介入し行動変容を起こさせることにより、将来、たくさんの医療費を使うかもしれない人を予防に向かわせること。医療保険の被保険者、被扶養者が加入期間中に健康でいていただけるようにすること。医療保険者が担わなければならない予防の対象はここにあります。同時に広報では、このようなエビデンスに基づく情報を的確に伝えることが健康行動を喚起します。

ターゲットを明確に
 尼崎市では、特定健診・特定保健指導が始まる前に保険者協議会を立ち上げました。そこで、レセプトにより保険者ごとの医療費分析を行ったところ、同じ年齢階層でも所属する保険者によって疾病の傾向が全く違っていることがわかりました。この結果から、医療費分析を行って保険者ごとの特徴を明確にしておくことが重要なことがわかりました。医療費分析は、まず自保険者のデータの特徴を把握し、わずかな異常値の重なりで右肩上がりになる医療費増大のメカニズムを理解したうえで対策をたてていくことがより効果的ではないかと思います。
 保健指導に出てきてもらうための方法として、尼崎市では「あなたは動機付け支援なので保健指導を受けにきてください」とか「積極的支援なので・・」とはいいません。『いま、あなたに会いたいのはなぜか』ということを相手に伝えなければ、特定健診・特定保健指導の実施率や利用率は上がりません。なんのために、どんな目的で、だれを対象に情報提供するのか、実施者(情報提供)側が伝えたい目的を統一化しておくことが大事です。
 私は「受診率の向上は、まさに砂金!」といっています。これまで健診を受診していなかった人たち、とくに被扶養者のなかに保健指導を必要とする人が多くいます。例えば、最高血圧200超の人がいるとします。放っておけばこの人は、いずれ脳卒中になり300万円もの医療費がかかります。このような人を掘り起こすことができれば医療費適正化につなげられるのです。
 一方、健康づくりのための環境整備もいまの時代には必要です。行政だけが情報を発信する時代ではありません。尼崎市国保では総合戦略として生活習慣病予防対策を考えており、その一環としてサポーター企業事業といって飲食関連企業もまき込んで住民のヘルスアップに取り組んでいます。また、手づくりの「国保つうしん」を作成していますが、組合健保の人も将来、国保に入ってくるので、みんなで健康づくりを考えようとの趣旨から、健保組合、協会けんぽ、高齢者医療制度の情報も入れています。自分にどのように関係があるのかを具体的に示すことが関心につながるため、そのような情報発信を心がけています。


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