広報誌「かけはし」
 
■2010年3月 No.462
 協会けんぽの後期高齢者医療制度への支援金に対する国庫補助を削減して、健保組合などの負担増分で賄うとした「肩代わり案」。これを含む国保法等改正案が2月12日、国会に提出された。同日、健保連の平井克彦会長は同案に反対の声明を発表、大阪など主要都市では、健保組合関係者により国庫補助の肩代わり阻止のための街頭活動が行われた。その後、組合会で「肩代わり案」に反対する決議を行った健保組合、理事長声明を発表した健保組合が続出している。
 国庫補助の「肩代わり案」を盛り込んだ国保法等改正案が2月12日、通常国会に提出された。平成22年度の国の予算案の審議後、関連法案として早い段階での審議が予測される。政府・与党は「肩代わり案」の7月からの実施を見込んでいるが、法案が修正されなければ健保組合全体で、22年度は330億円、23、24の両年度はそれぞれ500億円の負担増となる。
 同日、健保連の平井克彦会長は、国庫負担「肩代わり」法案に反対する声明を発表した。
 一方、健保組合では2月を中心に、22年度健保組合予算策定のための組合会が開かれているが、そこでは「肩代わり案」反対を決議した健保組合が相次いでいる。また、反対表明の理事長声明を出した健保組合も多数におよぶ。
 「肩代わり案」反対の決議の要旨は、(1)本来、国が責任をもって行うべき国庫負担の増額を健保組合等に肩代わりさせるもの。(2)高齢者医療制度改革の議論が始まったばかりの段階で、支援金の負担方法の変更という制度の根幹にかかわることが、一方的に、しかも財源捻出のためだけの手直しとして出された。(3)健保組合は、高齢者医療制度の負担増により、財政的に厳しい状況におかれている。(4)「肩代わり案」に対して、全国の健保組合とともに断固反対する。−などとなっている。
 高齢者医療制度への支援金・納付金の重圧により、健保組合の財政状況は、現状でも非常に厳しい。平成21年度予算をみると、健保組合全体の支援金・納付金の総額は約2兆4000億円にも達し、被保険者1人あたり換算では年間平均約15万円を負担している。
 個別の健保組合についてみると、被保険者数5000人強の健保組合の場合、高齢者医療制度への支援金・納付金に、すでに年間の保険料収入の63%、約13億円を拠出している。拠出後の残りの財源で健保組合の加入者に対する医療給付や保健事業を行うといった苦境に立たされている。
 被保険者数7万人強の健保組合の場合、保険料収入の50%、実に年間180億円強も拠出している。健保組合にとって、莫大な支援金・納付金の負担は、切実な問題である。
 健保連は「肩代わり案」阻止へ向けた活動の第一波として、2月12日に大阪をはじめ全国の主要都市で、健保組合関係者による街頭でのビラ配布を行った。また、健保連はすでに本部に「国庫負担肩代わり問題対策本部」を設置しているが、今後の国会審議の動向をみながら、第二波の統一行動を検討している。
 健保組合が行った国庫負担の肩代わり案に反対する決議と、健保連会長声明は、次のような内容である。
協会けんぽへの国庫負担の肩代わり案に反対する(決議)
 今般、政府が実施しようとしている、いわゆる「協会けんぽ国庫負担の肩代わり案」は、本来、国が責任をもって行うべき協会けんぽへの国庫負担の増額を健保組合等に肩代わりさせるものであり、こうした理不尽な負担増は受け入れることはできない。
 また、現行の高齢者医療制度について、その改革の議論が始まったばかりの段階で、支援金の負担の変更という制度の根幹にかかわる変更が、一方的に、しかも財源捻出のためだけの一部分の手直しとして出されたことも到底納得いくものではない。
 健保組合は、いま、高齢者医療制度の負担増により、財政的にたいへん厳しい状況におかれている。当健康保険組合でも、高齢者医療の支援金・納付金に多くの金額を拠出しており、今後の制度見直しのなかで負担の適正化を求めているところである。
 健保組合は、協会けんぽ国庫負担の肩代わり案に対して、全国の健保組合とともに断固反対する。
 
国庫負担「肩代わり」法案に反対する(声明)
(平成22年2月12日 健康保険組合連合会 会長)
 政府は本日の閣議で、協会けんぽの後期高齢者支援金に対する国庫補助を健保組合等に「肩代わり」させる案を決定し、国会に提出した。健保組合と健保連の反対にもかかわらず同法案が提出されたことに強く抗議し、改めて反対を表明する。
 法案では、「肩代わり」による健保組合の負担増が当初案の1400億円から500億円に減額された。しかし、問題は金額の多寡ではない。高齢者医療制度改革会議の議論を待たずに制度の根幹を一方的に変更すること、協会けんぽの後期高齢者支援金に対する国庫補助を減額して健保組合等に「肩代わり」させること、さらにはその財源を本来国の責任で確保すべき協会けんぽの給付費等に対する国庫補助に充て、予算のつじつまを合わせることに「理」がないことは明らかである。
 労使で組織し民主的・効率的に運営する健保組合は、わが国の医療保険制度において先駆的な役割を果たし、多額の拠出金を負担して高齢者医療を支えてきた。われわれは、高齢者の医療費を負担することにやぶさかではない。医療保険制度を効率的に運営しつつ、高齢者医療制度を含む制度全体を安定的に維持するためには、公費負担の拡大が必要だというのがわれわれの主張である。
 不合理な負担転嫁による予算のつじつま合わせが繰り返される根本的な原因が財源問題にあり、社会保障、とりわけ高齢者医療の安定的財源を確保するための税制改革が必要であることは論をまたない。
 国会においては、財源問題を含めて与野党で真摯な議論を行い、医療保険制度の将来を見据えた賢明な判断をするよう期待したい。