広報誌「かけはし」
 
■2010年1月 No.460
時評

「事業仕分け」は保険者の本分


 国の予算策定のための行政刷新会議ワーキンググループの「事業仕分け」に関しては、賛否両論がある。ただし、事業内容を国民に公開し議論する方式そのものについては、世論調査では8〜9割が評価している。
 医療制度関連の事業では、「レセプトオンライン導入のための機器の整備導入予算計上見送り」、「医師確保、救急・周産期対策の補助金等の縮減」、「診療報酬の配分の見直し」、「レセプト審査の適正化対策の見直し」などの判定結果となった。事業仕分けの結果そのものは全面的に支持できるものではないが、その手法については、健康保険組合における事業の取り組み方法と非常に類似しているといえる。
 健康保険組合の存在意義として、効果的な保健事業を自ら実行できることや、保険者機能を発揮し無駄の排除による効率的な運用を行うことができることなどがあげられる。その意味では、健康保険組合にとって事業仕分けは毎年自ら推進してきたものであり、これを国全体の規模で実施することは極めて当然のこととして受け入れられる。
 事業仕分けで重要なことは、説明責任の発揮と世論の喚起である。国の作業においては科学技術予算の大幅な削減に対して世論の批判が大きくなり、事業仕分けの結果を見直すとの政府見解が示されたことはご存じのとおりである。同様にいえることは、健康保険組合においても計画している事業や予算に関しては、加入者に対して十分に説明責任を果たし、正しい理解を得るべく粘り強い取り組みが必要、ということである。場合によっては、さまざまな方面への働きかけや運動も重要である。
 また、単に健康保険組合だけの立場に立った主張のみではなく、少子高齢化が進展する日本の10年先を見通し、国民皆保険を維持するには、本当になにが必要なのかをいま一度見つめ直し、より高い次元から訴えかけることが必要である。
 特定健診・特定保健指導を例にあげれば、従業員については会社での集合健診や保健指導を行うことができても、家族や退職者などの健診や保健指導の効果を上げるためには多くの労力と費用をともなう。これまでのように住所地での住民健診の枠組みで行った方が効率的であることはいうまでもない。後期高齢者医療制度に関しても、出産により扶養家族が多くなるほど拠出金が増加する現行の仕組みは少子高齢化対策に相反するものである。高齢者医療制度の見直し議論では、ぜひとも改善を強く要請していくべきである。
 一方、真に自ら事業仕分けができているのかをいま一度自己点検することも重要である。たとえば、レセプトのオンライン化によるデータ活用が可能になることにより、支払基金への事務費支払い分も含めてレセプト点検費用を大幅削減できないかなど、事業に無駄はないか確認することが必要である。
 従来の発想の延長線上にない施策や、既存の枠組みにはない構造改革を推進していかないと、社会保障の負担を現役世代が支えきれない事態となり、医療保険制度の明日はない。予算編成のこの時期こそが健康保険組合にとっても改革の絶好のチャンスなのだ。
  (Y・T)