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10月19日、薬業年金会館で健康教室を開催。健保連大阪中央病院 外科部長 谷口英治氏が「腹腔鏡下手術が変えた消化器疾患治療」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨) |
1990年に日本でも腹腔鏡下胆嚢摘出術が臨床導入されて以来、本手術は急速に全国に広がり、いまや外科治療の柱の一つと言っても過言ではない。本手術のパイオニアの一人である大橋秀一院長の肝いりで、大阪中央病院では種々の先進的な腹腔鏡下手術を手がけている。これらのうち、最も代表的な術式である腹腔鏡下胆嚢摘出術に関連する疾患に関して詳説するとともに、胃がんや大腸がんなど、近年腹腔鏡下手術が積極的に導入されている疾患に関しても概説した。 |
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谷口 英治氏 |
肝臓で作られた胆汁は胆管を通って十二指腸に流れるが、途中で胆嚢に貯留される。その際に、高コレステロール血症、逆行性感染、胆汁欝滞(うつたい)などの因子が加わり胆嚢内結石が生じる。胆石があると、胆汁を十二指腸に押し出そうとする際に結石も一緒に流れ出そうとして腹痛などの症状を惹起する。通常、胆石を持った人の15〜
20%程度に症状が発生するといわれているが、その症状にはバリエーションが多い。腹部や背部の鈍痛のような軽度のものから典型的な疝痛発作、さらには感染を合併すると急性胆嚢炎となり熱発、黄疸、肝機能障害などが起こることも多い。さらには、胆嚢から胆管に結石が落下して、閉塞性黄疸や急性膵炎などの重篤な症状を起こすこともある。
胆石の手術適応は、症状がある症例、過去に胆嚢炎を起こした既往のある症例が中心である。無症状の症例は、かつては発がんの可能性を危惧して手術を勧められたこともあったが、胆石が発がんのリスクであるというエビデンスはなく、最近では経過観察することが一般的である。しかし、侵襲の小さな腹腔鏡下手術の普及で、予防的に手術を希望される症例が増加している。
まれに胆管内に結石が発生する症例もあるが、ほとんどは胆嚢内結石が胆嚢管を通って胆管内に落下して発生する。@開腹手術、A内視鏡的胆管結石摘出+腹腔鏡下胆嚢摘出術、B腹腔鏡下胆管結石摘出(胆嚢摘出を含む)など治療のバリエーションがあり、施設によって方針が異なる。腹腔鏡下手術の充分な技術を持っていれば、B腹腔鏡下胆管結石摘出(胆嚢摘出を含む)が、低侵襲で一度の治療で治療が完了するため有用と考えている。
超音波エコー診断で、最大径が10o以上のもの、広基性のもの、増大傾向を示すものなどは胆嚢がんの可能性を否定できないために手術の適応となる。これらのうち、良性の可能性が高いと考えられるものの、悪性を完全には否定できない症例が腹腔鏡下手術の適応となる。
当初早期がんに対して導入されたが、技術の進歩により進行がんに対するリンパ節郭清を伴う手術に対しても臨床応用がさかんに行われている。腹腔鏡下手術によって、従来の開腹手術と遜色ない手術が低侵襲で可能となる。逆に、早期がんに対しては内視鏡的治療(ESD)が普及しつつあり、腹腔鏡下手術の適応症例は若干、減少傾向である。診療ガイドラインに準拠しつつ、進歩し続ける治療技術をうまく臨床に組み込んで個々の患者に最適の治療を選択することが重要である。
その他、食道アカラシアや食道裂孔ヘルニアなどの良性食道疾患に対する腹腔鏡下手術に関しても述べた。 |
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