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メンタルヘルス問題の新しい展開

− こころと身体、ライフ・スタイル、
ワーク・エンゲイジメントから − |
9月30日、薬業年金会館で心の健康講座を開催。帝恷R大学大学院 産業心理臨床領域 教授 森下高治氏が講演されました。(以下に講演要旨) |
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森下高治氏 |
人は、自己実現と安寧を目指し、適応状態にあることが大事です。しかし、働く人たちの中には適応状態にない人たち、すなわち、メンタルヘルス不調(不適応)に陥っている人は少なくありません。少しでも少なくするのが我々の願いです。
そこで、不適応状態の鍵を握るのがストレス問題です。ストレスは、入口部分の職場における役割ストレス、対人関係、労働条件などの「職場ストレス(ストレッサー)」。出口部分の身体的・精神的疲労感を表す「心身症状(ストレイン)」です。その間を結ぶ健康習慣や生き方、ソーシャル・サポート(社会的援助)などの「媒介要因(ストレス評価)」があります。
職場ストレスをもつ人に対して援助の役割の担い手は、上司、同僚、家族、カウンセラー、看護師・保健師などが考えられます。なかでも、大きな影響力をもつのは上司です。私どもが実施したある地方自治体職員のソーシャル・サポートの調査結果からも明らかになり、上司による慰めや助言を受けた場合は、ストレス反応の数値が他に比べ、大きく減少しました。慰め、理解、認めるなどの心理的援助を上司から受けることができれば、心身の状態の回復が期待できるでしょう。 |
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次に、媒介要因の一つであるライフ・スタイルについて、非労働を余暇にみて、労働と余暇の影響過程を考えてみましょう。
まず、労働で満たされない部分を余暇で埋める「補償仮説」、労働の悪い影響が余暇にも悪い影響を与える「流出仮説」、労働は労働、余暇は余暇であるという「分離仮説」が存在します。
私は、「流出仮説」の特性をプラスにすることができればと考えます。これは、「プラスの流出労働・余暇仮説」です。労働のプラス(生きがい、やりがい)が、余暇にもプラス(趣味・スポーツ、社会活動の充実)の影響を及ぼすというものです。そうすることで、活き活きとしたライフ・スタイルを送っていければいいなと思います。
これまでの研究成果では、仕事回避型のライフ・スタイルプロフィールを描く人たち、また、心療内科に受診の症例は、バランスを欠いた、いびつなプロフィールです。そのために、ワーク・ライフ・バランスの考え方を取り入れる必要があります。老若男女だれもが、仕事、家庭生活など様々な活動について、自ら希望するバランスで展開できる状態にあり、働く人が仕事上の責任を果たそうとすると、仕事以外の、生活でやりたいことや、やらなければならないことに取り組めなくなるのではなく、両者を実現できることが最もバランスがとれた状態だといえます。 |
メンタルヘルス問題を積極的に捉えるために、最近注目されているワーク・エンゲイジメント(仕事活動の充実具合)に話を移します。
ワーク・エンゲイジメントとは、「仕事に誇りややりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て活き活きしている状態」をいいます。すなわち、仕事活動の充実具合が大であれば、精神的健康だけでなく、それは個人や組織のパフォーマンスを促進し、ポジティブな側面を示すものです。また、周囲のサポートや働く目的でも変化しますが、役職や働く目的などの個人的要因と職業性ストレスが高い影響力をもち、ストレス反応にも少なからず影響を与えます。
これからの職場ストレス問題の考え方について、このワーク・エンゲイジメントをできるだけよい状態で維持できるよう、取り組んでいくことが大切だと考えます。 |
[講演の合間には、森下先生による自律訓練法の実践、サポート役の西澤氏によるボディワーク『リラクゼーションの実践(太極拳の型) 身体からこころへキーワード「ふぁんそん(リラックスの意)」』が行われました。] |
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