広報誌「かけはし」

■2009年10月 No.457
 
 
皮膚・形成外科の診療と疾患

 9月15日、薬業年金会館で健康教室を開催。健保連大阪中央病院 皮膚・形成外科部長 原元 潮氏が「皮膚・形成外科の診療と疾患」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)

   皮膚・形成外科とは
 

 

原元 潮氏

  当院の皮膚・形成外科は、西梅田の新病院に移転したのを契機に新設されました。当時の院長の正岡先生が、皮膚科と形成外科を統合した科として、命名されました。正岡先生によると、読み方は「ひふ てん けいせいげか」だそうです。皮膚科は一般にもよく知られた科で皆さんにも馴染み深いと思いますが、形成外科は、その名前はまだまだ一般には浸透しておりません。しかしながら、形成外科の行う診療は、日常よく遭遇する疾患を取り扱うことがよくあります。診療内容は、@「皮膚の外科」であり、皮膚の手術を行うこと、A「顔の外科」であり、顔の形を整えること、B「再建の外科」であり、癌などで大きく切除されたあとの修復を行うことなどがあげられます。さらに、大阪中央病院では、皮膚の美容的な治療を行う「美容皮膚科」、皮膚の美容的な外科治療を行う「美容外科」も行っており、レーザー治療でしみやほくろを治療しております。

   日常よくある診療:形成外科
 日ごろの診療のなかで多いものとして、@ケガや傷の処置、A「脂肪の塊」の治療、B巻き爪、C魚の目、Dほくろ、などがあげられます。これらの診療の中には、医療関係者を含めて誤解されていることなどにより、症状などがかえってひどくなっているような出来事に、たびたび出くわします。このようなことを中心に述べていきたいと思います。
@皮膚の新陳代謝
 皮膚は、大きく2層に分かれており、薄い表層の「上皮」、分厚い「真皮」から成り立っています。上皮は、一番下層で細胞がどんどん分裂し、増殖した細胞がどんどん浅い層へあがっていき、やがて細胞は死んで皮膚の表面である角質層を形成し、さいごに、「皮膚のアカ」として脱落します。つまり、皮膚は細胞の死骸であるアカをつねに作り出しており、これがさまざまなことにかかわってきます。
Aケガや傷の止血処置
 指などの小さなケガに対する応急処置として、よく遭遇することのひとつに、腕をハンカチなどでしばって止血しようとすることです。腕をハンカチでしばると、腕の表層にある静脈がせき止められてしまうのに反し、動脈は深部にあるためにせき止められることはほとんどありません。血液は動脈を通って腕に入ってきて、静脈を通って出て行くので、出口である静脈がせき止められれば、腕にどんどん血液がたまり、傷口から大量に出血し、血液が止まらなくなります。そのため、小さなケガであっても、腕をハンカチで縛ったためにかえって大量出血を引き起こし、大変なことになって病院にやってくることになります。
 また、指を輪ゴムでしばって止血されてこられることもよくあります。指では、静脈も動脈も浅くなってきますので、輪ゴムで縛ると両方ともせき止められます。そうすると、指に血液のめぐりがまったくなくなります。そのようにすれば、たしかに血は止まります。しかし、そのまま数時間放置すれば、指は死んでしまい、切断しなければならなくなります。ふつうは、そうなるまでに痛くなりますが、糖尿病などで神経が鈍感になっている場合には、痛くないため、簡単に指を切断しなければならないことになってしまいます。
 正解は、傷口をきれいに水道水で洗い、そのあとハンカチでかるく傷口をおさえると、だいたい10分ぐらいで血は止まります。それでも止まらない場合には、傷口を軽く押さえたまま病院に来てください。
Bケガや傷の消毒処置
 指のちょっとしたケガの処置でよく行われることにも危険はあります。一般に傷からばい菌が進入するのを防がなければならないと思われています。したがって、次の4つのことはよく行われることです。
消毒や抗生剤軟膏を傷口に塗る。
傷口にバンドエイドを貼る。
傷口が水にぬれるとばい菌が入るため水にぬらさない。
水にぬれないようバンドエイドを貼ったまま風呂に入る。
 これらのことを実行すれば、かえって感染を引き起こす危険性が増えます。また、化膿性肉芽腫という出血しやすい腫瘍のようなできものも傷口に生じやすくなります。そして、このようになったために入院や手術などの治療をしなければならないこともあります。
 どうして、このような処置が有効ではなく、かえって悪いのでしょうか。
 まずは、消毒や抗生剤軟膏などの効果についてですが、そのような薬剤がばい菌に対して殺菌作用があることは認められていますが、傷口に塗ることでばい菌が死滅するわけではありません。逆に傷口にはさまざまなばい菌の栄養となる不純物が付着しており、ばい菌はそのような環境条件が整えばすぐに増殖します。また、最近では消毒液の正常組織に与える障害のために、傷の治りが遅くなるともいわれています。いずれにしても、消毒は悪いこととはいえないものの、効果に期待するようなものでもないということです。
 次に、傷口にバンドエイドを貼ることについては、傷の保護にはなりますが、これでばい菌の進入を防ぐことはできません。傷はもともとじめじめしているものですから、そこへバンドエイドを貼ると、よりじめじめしてきます。そのため、ばい菌の繁殖しやすい条件ができあがってきます。
 傷口が水にぬれると、ばい菌が入るため、水にぬらさないというのは、これもよくありません。傷口には、ばい菌の栄養となる不純物や皮膚のアカのような代謝物がどんどんたまりますので、これらを洗い流す必要があります。水道水にはほとんどばい菌はいませんので、(傷口のほうがばい菌が多いと思います。)水道水できれいに傷口を洗うことがばい菌の繁殖を促進させる環境を取り除きます。石鹸を使ってもかまいません。
 水にぬれないようにバンドエイドを貼ったまま風呂に入るというのは、お分かりのように、傷口が洗えず不潔になり、もちろん、防水効果もありませんので、水がしみこんでじめじめするため、このままではすぐにばい菌が繁殖するでしょう。
 ◆ 脂肪の塊
・「脂肪の塊」とは?
 一般に「脂肪の塊」といわれているものは、医学用語では「粉瘤」または「アテローマ」といわれています。皮膚疾患の中でももっとも多い疾患のうちのひとつです。そして、その正体は脂肪ではなく、皮膚の袋です。皮膚の袋の内側の表面から出た皮膚アカが袋の中にたまるのでしこり状となります。これは皮膚とつながっており、小さな穴が開いており皮膚表面とつながっています。袋を押すと、中身が穴から出てきて、悪臭を発します。
・粉瘤の感染
 この粉瘤は、突然腫れて感染を起こします。よくばい菌が入ったといわれることが多いですが、ばい菌や微生物のようなものはもともと袋の中にいることが多いでしょう。感染を起こすきっかけはばい菌の進入ではなく、袋が破裂することです。袋が破裂すれば、なかの皮膚アカや油、そして、その変性物が体内に放出されます。これらの物質は、体にとっては異物と認識されます。異物は、攻撃しなければならないので白血球などがやってきてアテロームを溶かしていきます。(とけたものはウミとなります。)このとき、ひどく腫れ、強く痛みます。これが粉瘤の感染の実態です。治療は皮膚を切開して、ウミとともに中にたまっている皮膚アカなどの異物を除去して、感染の原因を取り除くことです。切開すれば、異物はなくなり、攻撃の対象がなくなるので速やかに感染はおさまり、傷は自然に閉鎖していきます。
・粉瘤の根治
 これで、いったん治ったかのようになりますが、多くは皮膚の袋の一部が残り、また、皮膚のアカが袋の中にたまっていき、粉瘤が形成され、再発します。再発した粉瘤がまた感染を起こせば、また切開してウミを出すという処置をしなければならず、このことを繰り返すことになります。したがって、感染する前に、手術で袋を取り除かなければなりません。この手術を終えれば粉瘤は完全になくなり完治します。
 ◆ 巻き爪
 巻き爪は、爪の縁が皮膚に食い込んで、爪が皮膚に刺さることによっておこります。巻き爪になったら、つめを切ってはいけないといわれることが多く、また、洗ってはいけないともいわれていることが多いので、そのまま長期経過して、ひどい感染を起こしていることがしばしばです。爪を伸ばせば靴に当たり、爪が根元から曲がってしまいますし、洗わないからジュクジュクになってしまっています。そのような場合にはすぐに麻酔して、爪を必要なだけ切り、傷口を掃除してきれいにします。すると、痛みはすぐにおさまり、傷はすぐに治っていきます。しかし、このままではまた爪が生えてきて同じことを繰り返すこともあります。そこで、再発しないよう手術を行います。手術は、問題の爪の内側または外側の縁の部分を、その部分だけ抜き、爪を抜いたあとにできた穴状のスペースにフェノールという薬を浸して爪を生やす組織を破壊します。その穴は傷となり、1―2ヵ月で閉じて、もう巻き爪をおこすような爪は生えてきません。この手術のいいところは、翌日からほとんど痛みも無く、日常生活に支障を与えることがほとんど無いことです。

あとがき
 引き続き魚の目、ホクロ、そして最近治療した形成外科の実例を紹介し、健康教室を終わらせていただきました。


※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。