広報誌「かけはし」

■2009年9月 No.456
 
 
糖尿病の薬物療法

〜 新たな展開と可能性 〜

 9月3日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。健保連大阪中央病院 内科部長 中川智左氏が「糖尿病の薬物療法〜新たな展開と可能性〜」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
 

 

中川智左氏

 糖尿病とは、インスリンの作用不足により慢性の高血糖状態が継続し全身の代謝障害をきたす疾患で、複数の遺伝因子に、過食・運動不足・肥満・ストレスなどの環境因子や加齢が加わり発症します。糖尿病の二大成因として、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性が挙げられます。日本人は農耕民族で伝統的に粗食であったため、遺伝的にインスリン分泌量が少ないうえに、近年の過食・飽食・高脂肪食で肥満が増加、さらに運動不足も加わりインスリン抵抗性が増大したことが、糖尿病患者の大幅な増加につながっているのです。
 糖尿病の治療の基本は食事療法と運動療法。そのうえで必要に応じ経口薬やインスリン注射を用いた薬物療法を行います。最近ではさまざまな作用機序の薬剤が開発され選択肢が広がりつつあります。現在用いられている経口糖尿病薬には次のようなものがあります。
 まず代表的な薬剤がスルフォニルウレア(SU)薬で、主として膵臓のβ細胞にはたらきインスリンの分泌を促進します。作用時間は長く、最も強力に血糖を下げます。アマリール、オイグルコン、ダオニール、グリミクロン等があります。速効型インスリン分泌促進薬は、SU薬と同じく膵β細胞のインスリン分泌を促進させますが、作用時間は短く、食事ごとに服用して食後の血糖を下げるのに用いられます。ファスティック、スターシス、グルファストがあります。次にインスリンが作用する肝臓・筋肉・脂肪細胞等にはたらき、インスリン抵抗性を改善する薬剤があります。ビグアナイド薬やチアゾリジン薬で、前者はグリコラン、メルビン、メデット、ジベトスB等、後者はアクトスがそうです。さらに小腸で糖質をブドウ糖に分解する酵素α―グルコシダーゼのはたらきを抑え、糖の吸収を遅らせることで食後の高血糖を抑制するα―グルコシダーゼ阻害薬であるグルコバイ、ベイスン、セイブルがあります。このような多種類の薬物療法でもコントロール不良な場合には、インスリン治療を行います。
 そしていま注目されているのが「インクレチン関連薬」です。「インクレチン」とは食事摂取に伴い小腸から分泌され、膵臓のインスリン分泌を促進する消化管ホルモンです。血糖値が高くなってはじめて作用するため低血糖の危険が少なく、食後高血糖を改善できるとされます。また実験段階では膵β細胞の数を増加させる可能性があるともいわれています。インクレチンのひとつ「GLP―1」に関連した2種類の薬剤が開発され、近々市販予定です。ひとつは「GLP―1作動薬」と呼ばれるGLP―1の作用時間を長くしたもので、皮下注射します。食欲を抑制し体重を減少させる可能性もあります。もうひとつは「DPPW阻害薬」で、GLP―1を分解する酵素DPPWを阻害することで、GLP―1のはたらきを増強します。こちらは経口投与です。
 糖尿病の治療目標は、網膜症・腎症・神経障害等の合併症や動脈硬化性疾患の発症・進展を阻止し、健常人と変わらぬQOLと寿命を維持・確保することです。新しい薬剤「インクレチン関連薬」の可能性が大いに期待されます。


※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。