広報誌「かけはし」

■2009年8月 No.455
 
 
特定健診・特定保健指導のデータを用いた
生活習慣病予防・医療費適正化プランの作り方

 6月30日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。国立循環器病センター 予防検診部長 岡村智教氏が「特定健診・特定保健指導のデータを用いた生活習慣病予防・医療費適正化プランの作り方」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
 

 

岡村智教氏

◆健診の意義
 「健診(健康診断)」は、健康状態の確認を行うもので、病気になりやすい要因があるかどうかを判定します。特定の病気を見つけるためのもの(検診)ではありません。
 健診を受けることで、現在の健康状態を調べ、将来の生活習慣病の危険性を明らかにできます。脳卒中や心筋梗塞などの重篤な循環器疾患の原因となる高血圧や耐糖能異常、脂質異常症などを調べて、それぞれの危険因子の重症度やその対処法などを判定するための情報が得られます。高血圧や糖尿病、脂質異常症などの危険因子を持っていても、ほとんど自覚症状はありません。そのような自覚症状のない人を対象に、危険因子の有無を点検し、適切な生活習慣への改善を促し、重症の場合は早期の治療へとつなげます。
 平成20年度からメタボリックシンドロームに着目した特定健診・特定保健指導が始まりました。特定健診において、前述した危険因子のリスクの状況を把握し、それに応じた特定保健指導を受けることになります。
 特定保健指導の方法は、リスクの基準値をもとに「情報提供・動機付け支援・積極的支援」の3種類に分けられます(階層化)。危険因子の基準値は、大多数の人が含まれる範囲の検査値ではなく、重篤な病気があまり発症しないと考えられる範囲の検査値として示されています。特定保健指導では危険因子が多くなるにしたがって、保健指導がきめ細やかになります。

◆データの活用(医療費解析)
 滋賀県の全国保加入者を対象に健診所見と5年間の医療費データを突合しました。特定保健指導の階層化に用いられる危険因子の有無で年間総医療費を比較すると(ウエストの代わりに、「BMI25以上」を必須項目とした場合)、リスク因子の数が増えるほど医療費も増えるという結果になりました。肥満、高血圧、高血糖では危険因子「あり」の方が「なし」に比べ、医療費が高い傾向があり、肥満のある・なしに関わらず、危険因子の集積に伴って医療費が増加する傾向にありました。
 このデータを用いて特定保健指導の対象者に保健指導を行った場合、どの程度メタボ改善による医療費減少効果が期待できるかがシュミュレーションできます。そのためのエクセルシートを作成しました。男性で特定保健指導の対象者を半減させると、約2・5%総医療費が下がると試算されました。ここで示される数字はパーセントですが、実際の金額で計算し、数値で体感することも重要です。例えば、試算結果が1%という小さな数値だったとしても、実際に抑制される医療費は、かなりの金額になる可能性があります。またこれは総額の減少を示しており、伸び率の抑制効果としては27%の抑制になります。
 健診・医療費データを解析して、健診結果と医療費との関連を検討することで、保健指導の医療費適正化に対する効果を導き出すという、机上の空論ではなく、実際のデータに基づいて保健指導計画を立てることが可能になります。

◆理想の医療制度とは
 民間による保険は、その性質上、本人の負担が大きいほど見返りも大きくなります。反対に、公的な医療制度は、周りからの投資がないので、医療設備などが整いにくく、医療界の職場環境や報酬の面からみても医師や看護師などの確保は困難なものになっています。最も大事なことは、民意がどこにあるか、受益と負担のバランスが重要だといえるでしょう。


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