広報誌「かけはし」

■2009年7月 No.454
 
 
脱メタバコ

− メタボ対策における禁煙の意義と方法 −

 6月18日、大阪商工会議所で健康セミナーを開催。大阪府立健康科学センター 健康生活推進部長 中村正和氏が「脱メタバコ ―メタボ対策における禁煙の意義と方法―」をテーマに講演されました(以下に講演要旨。「メタバコ」とは、中村先生が考えられたメタボリックシンドローム(メタボ)とタバコを組み合わせた造語です)。
 

 

中村正和氏

 ◆喫煙による健康障害
 タバコを吸うと脂質代謝や糖代謝への影響からメタボ発症リスクを高めます。
 ほかにも喫煙するとメタボになりやすい理由として、喫煙者では早食いや朝食欠食などの食事の偏り、飲酒、運動不足を合わせもっていることが多いことや、内臓脂肪を増やすコルチゾールが増加し、男性は男性ホルモンが減少し、女性は女性ホルモンが減少することで、内臓脂肪が蓄積しやすくなるといわれています。
 さらに、メタボかつ喫煙している人は、脳梗塞や虚血性心疾患のリスクが著しく高まるなど、喫煙は肥満と並んで多くの病気の原因となっています。
 タバコは免疫力を低下させ、インフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。また、創傷の治りが悪くなり手術時にも影響がでることや、体内のコラーゲンを破壊し肌のしわを増やすほか、肺気腫や椎間板ヘルニアにかかりやすくなります。そのほか、白内障や失明の原因となる黄斑変性にもなりやすいことがわかっています。
 日本での喫煙による推定死亡数は、2003年の試算では男女合わせて13万人以上となっており、とくにこれまで喫煙率の高かった男性を中心に増加しています。この数は、例えば1年間に350人乗りの飛行機が毎日落ちるようなもので、それほどタバコの健康影響は深刻なのです。日本のタバコ価格が欧米に比べ、かなり安く設定されていることが喫煙率が高い原因の一つと考えられています。

◆禁煙の効果
 禁煙に遅すぎるということはありません。禁煙すると、禁煙2〜4年後には喫煙継続時に比べて虚血性心疾患の発症または再発のリスクが35%減少します。肺がんでは虚血性心疾患に比べて効果は遅れるものの、禁煙5〜9年後にリスクが低下します。禁煙10〜15年後にはこれらの病気のリスクが非喫煙者にほぼ近づきます。
 禁煙によって確実に医療費の削減につながります。特定保健指導においては喫煙が階層化の基準に含まれているため、喫煙者が多い集団では特定保健指導にかかる費用が結果的に増えてしまいます。経済的な面からも、禁煙の効果は大きいといえます。
 喫煙者1人当たりの企業コストの面からみても、労働生産性の低下や疾病による休業率の増加などにより、企業にとって損失になっていることはいうまでもありません。

◆健診と医療が連携した禁煙推進
 健診や保健指導の場において禁煙の重要性を伝えます。禁煙すべきことをはっきりと伝え「重要かつ優先順位が高い健康課題である」ことを強調しましょう。受診者の病歴や健診結果などを踏まえて、喫煙の健康影響や禁煙の効果を「個別的に」情報提供することが心に響くアドバイスとなります。
 次に、喫煙者の多くは自力で禁煙しないといけないと考えがちですが、自力で禁煙するより、保険による禁煙治療を受けた方が、より「楽に」「確実に」「あまり費用もかからずに」禁煙できることを伝えましょう。禁煙を手助けする薬剤の情報提供も重要です。保険による禁煙治療では従来のニコチンパッチのほか、さらに効果が期待できる内服薬のバレニクリンも使用できます。
 禁煙の治療法の進歩と保険適用により、「運動、食事、禁煙。なにから始めましょうか?」という質問に対して、「運動、食事も大切だけど、治療を受けて、まず禁煙から始めてみませんか?」というアドバイスができる時代となりました。タバコを吸っている人には救命につながる「愛の声かけ」をみんなで実践しましょう。


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