■2009年5月 No.452
長期的視点での高齢者医療制度改革を
− 一貫した発想で制度構築を −
平成20年度予算における2200億円の社会保障費抑制策として、厚生労働省が提出した“肩代わり法案”については、高齢者医療にかかる納付金・支援金の急増で多くの健保組合の財政が深刻な事態になったことや野党の反対などにより廃案となった。このような財政調整は、本来、国が税で対応すべきところを「あるところから取ればよい」との安易な考えであるとともに、わが国の医療保険制度の枠組みを崩す重大な問題であり断じて受け入れられない。
与党高齢者医療制度に関するプロジェクトチームが「前期高齢者医療への公費の投入」を課題として明記し、検討を始めた。これに関してもいくつかの課題がある。
一つは、前期高齢者納付金への公費投入の前提として「健保組合間での応能負担」が検討されていることである。“肩代わり法案”と同様の発想であり、まじめに被保険者の負担を抑え、経営努力をしている健保組合はいたたまれない思いでいっぱいである。ピーク時に1827組合であったものが2009年4月現在では1485組合に激減している。財政負担の考え方が、「あるところから取ればよい」との発想しかないのであれば、自助努力に限界を感じ、あるいは重なる負担に耐え切れずに協会けんぽに移行しようとする健保組合が後を絶たない状況になったとしても不思議ではない。
二つ目は、平成20年度の健保組合の財政負担増のうち、8割が前期高齢者納付金によるものであることから公費投入が検討されているが、増加額の2割を占める後期高齢者支援金への対策も待ったなしである。平成21年度健保組合予算早期集計では、高齢者医療制度にかかる納付金等の状況は、後期高齢者支援金の伸び率が13・08%と前期高齢者納付金の伸び率6・62%の2倍である。
人口推計でも2020年には後期高齢者人口が前期高齢者人口を上回る見込みである。健保財政への前期・後期の負担割合は、まもなく逆転するものと見ておかねばならない。対策としては公費投入に限ることなく、根本的な課題である少子化への対策を加速すべきである。具体的には、0〜15歳までの保険加入者については算定基礎数値から除外する等の減免措置を取るなど、あらゆる面で少子化対策に取り組んでいる企業や健保組合を下支えする一貫した政策を柱に据えた制度を構築していくことが重要である。
(Y・T)