広報誌「かけはし」
 
■2009年1月 No.448
時評

丁寧で分かりやすい説明を
─ 産科医療補償制度の創設 ─


 本年1月1日から「産科医療補償制度」が創設され、これに伴い出産育児一時金および家族出産育児一時金が35万円から38万円を上限に引き上げられた。この制度は、通常の妊娠・分娩で脳性まひになった障害児と家族に対し、3000万円の補償金を支払う仕組みである。また、並行して第三者機関(財団法人日本医療機能評価機構)が事故原因を分析し、結果を公表して再発防止等を図る。
 産科医療補償制度は昨年の中頃から急に議論が進み、極めて短期間で導入が決定され、昨年12月中旬に政令等が公布された。この制度は、少子化対策や産科医の負担軽減、妊産婦への財政支援の観点から、緊急の特別な対策として実施され、医療側と患者側の双方に利点があることから一定の評価はできる。また、医師や病院側に過失がない場合でも、医療事故の患者や家族に経済的補償を行う「無過失補償制度」の先鞭をここからつけるものとなる。
 しかし、そもそも出産育児一時金等は出産に要する費用の経済的負担軽減を図るために支給されるものである。妊産婦と分娩機関との契約により、民間の損保会社を活用するこの制度に対し、医療保険者がその費用を負担することには違和感がある。
 出産育児一時金等は、平成18年10月に30万円から35万円に引き上げられたばかりであり、保険者の負担がさらに増える。そして、@この制度に加入する医療機関がまだ100%ではなく、加入の有無で出産育児一時金等の支給額が違ってくるA3万円の根拠が明確でなく、補償対象者を約500人から800人と見込んでいるが、リスク設定が高すぎるのではないかB同制度の補償申請の受付期間を「原則満1歳の誕生日から満5歳の誕生日まで」としているため、剰余金および欠損金の発生も本年から5年後でないと確定しないC早産の一部を対象外としていることや第三者機関の位置付けが不明確である、など多くの疑問や課題をかかえている。
 このようななか、昨年11月末、舛添厚労相は、出産育児一時金等を被保険者を経由することなく分娩機関へ直接支払う制度の導入や、国費を投入して現行の38万円に上乗せし全国一律で引き上げる考えを明らかにした。そして、これに呼応するように、昨年12月、厚労省は本年10月から平成23年3月までの暫定措置として、出産育児一時金等を4万円引き上げる方針を示した。
 われわれ健保組合を含む全国の医療保険者の財政状況は極めて厳しい状況にある。したがって、国はこの状況を考慮して、これらの施策については財源確保のうえ、すべて公費投入で対応するべきである。
 すでに産科医療補償制度は始まっており、国は今後も丁寧で分かりやすい説明が必要である。それを怠れば後期高齢者医療制度のような混乱や誤解が生じてしまう。今後、問題点や課題を改善しながらこの制度を定着させていかねばならない。

 

(K・M)