広報誌「かけはし」

■2008年12月 No.447
 
 
企業での生活習慣病の予防

〜個人への対応とポピュレーション・アプローチの推進〜

 11月20日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。国立循環器病センター 予防検診部長 岡村智教氏が「企業での生活習慣病の予防〜個人への対応とポピュレーション・アプローチの推進〜」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
 

 

岡村智教氏

 ◆「健診」と「検診」の違い
 たとえば「循環器健診」と「がん検診」では「けんしん」の文字を変えています。健診(健康診査、健康診断)は人間の健康度を総合的にみようということで範囲が広く、一方、検診は特定の検査で病気をみつけることで、早期発見を目的にしています。
 特定健診はメタボリックシンドロームに着目して、危険因子の評価をし、ハイリスクの人をリストアップします。そして、おもに循環器疾患の予防を通して医療費の抑制を目指すものです。肥満者を減らすのが主目的ではありません。
 腹囲が診断基準の「必須項目」になっていますが、男性85p・女性90pに満たさず、血圧や血糖に問題がある人は、指導の対象にならず、重症化する危険性もあります。それでは健診を行う意味がなく、医療費適正化という目的も達成することが難しくなります。肥満がないから安心というわけではありません。

◆「運動」と「食事」で改善
 個別指導の技法を開発するために、運動を主、栄養を従として3カ月間のスリム教室を、ある2つの企業の男性社員を対象として無作為化比較対照試験という方法で行いました(指導される人とされない人をくじ引きで分けた)。
 まずケガ防止のためのストレッチ体操と筋肉をつけるためのダンベル体操の講習会を行った後、毎日、どれくらい運動ができたか、歩数と体重がどうなったかを確認するモニタリングを行いました。その後、対象者が慣れてから、問診票や写真法、リーフレットによる栄養・食事指導に移りました。
 その結果、3カ月間の比較的軽負担の介入(自宅での運動、簡便な食事指導)で、いずれの企業でも指導をしなかったグループに比べて、体重・BMI・腹囲の有意な減少が認められ、メタボリックシンドロームに関連する危険因子にも改善傾向が表れました。
 この手法は、広く利用が可能であり、“国民皆保健指導時代”に適した手法と考えられます。

◆健診所見と医療費の関係
 ある地域の40〜69歳を対象に、生活習慣や健診での異常所見とその後10年間の国保医療費の関連を検討した結果、個人単位でみると、非肥満でリスクがない人が最も医療費が少なく、肥満で高血圧などのリスクの数が多いほど医療費が高いことが分かりました。
 しかし、ここで重要なのは全体の医療費がどうなっているかです。肥満やリスクによって生じる過剰医療費をみると、非肥満でリスクがある人の方が大きいという結果が出ました。その理由は、肥満でリスクのある人よりも、非肥満でリスクのある人の方が人数が多いからです。医療費の適正化を目指すなら、非肥満者の保健指導が重要になってきます。対象者数の多いところに対策が必要であることを考えていかなければならないでしょう。

◆今後の課題
 今後、医療費の適正化に向けての課題として、医療費上昇の要因となった疾患や、危険因子ありと診断された後、管理できた者とそうでない者の医療費の違い、保健指導の効果の検証などがあげられます。
 現在、財源論や、これまでに医療を安価で提供しすぎてきた悪影響が強く出て保健・医療の現場に疲弊感が出ています。これからわが国の保健・医療制度がどのように進んでいくかの岐路にたっているといえます。


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